更年期世代の夏バテ、どうやって乗り切る?
更年期世代のつらい悩みを、その道の専門家に相談して解決方法を探る「お悩み解決隊」。今回取り上げるテーマは「更年期世代の夏バテ」です。専業主婦のヴィーナス、ヒロミが「M’sクリニック南麻布」院長の伊藤まゆ先生に、更年期世代の暑い夏の乗り切り方を教えてもらいました。ラストの先生からのメッセージに、ヒロミはいたく感動してしまったようです。最後まで必見です!
更年期世代の夏バテ、こんな症状に要注意!
ヒロミ 伊藤先生、今年の夏も暑いですね…!毎日だるさを感じるのですが、これって夏バテでしょうか?
伊藤先生(以下、伊藤) ヒロミさん、つらそうですね。一般的に夏バテというのは、過剰な高温と多湿により起こるさまざまな体の症状のことを指します。主な症状としては、食欲低下、胃腸機能の低下、体の重だるさ、全身の倦怠感、情緒不安定、無気力感、頭痛、めまい…。負のループで、体調も悪化する場合が多いですが、どうでしょうか。ヒロミさんの症状には、当てはまっていますか?
ヒロミ 先生、まさに今の私です。なんだか年を取るごとに夏バテもひどさを増している気がします…。
伊藤 更年期世代は、もともと体がしんどい時期。夏も、若いときよりつらく感じるかもしれません。
更年期といわれる時期は、卵巣からの女性ホルモン・エストロゲンの分泌に揺らぎが起こります。エストロゲン分泌量が急に低下すると、体がその変化に対応できずにあちこちに影響が出ます。
突然の発汗、顔のほてりや熱感、動悸、血圧の変動、頭痛、不眠など、それまで感じたことがない更年期症状…。これは一種の自律神経の乱れなのですが、それが続くと、日常生活に大きな影響が出るのはヒロミさんもよくご存じですよね。そしてこれらの症状は周りからは見えづらいので、なかなか理解されにくく、余計につらく感じることもあるでしょう。
また更年期に現れるさまざまな症状は、環境や生活、精神的ストレスによっても悪くなったり良くなったりします。日本の夏は気温も湿度も高いですから、更年期症状に夏のつらさが加わり、ただでさえしんどい体や心に追い討ちをかけるように体調不良が深刻化するのです。
ヒロミ 夏バテは毎年気力で乗り切っているようなところがありましたが、年を取るごとにしんどさが増してきました。ひょっとしたら病院に行ったほうがいい、危険な体調不良というのもあるのでしょうか。
伊藤 更年期世代は、血管の拡張や収縮が不安定な状態になりやすくなります。
動悸や背中・肩の重苦しさ、胸の違和感、吐き気などの症状がいくつか重なって現れたり、繰り返したりすることがあれば注意してください。心臓そのものに栄養を送っている冠動脈という大切な血管から出る細かい枝に、血行不良や血栓などの問題が起きているかもしれません。
これは、一般的な狭心症とは違い、心筋梗塞などに移行する危険性は少ないと考えられていますが、世代的にも血管系の病気が増えてくる時期ではあります。危険がないかどうか確認するためにも、一度病院を受診した方が安心ですね。
暑気あたりを招きがちな生活習慣とは?
ヒロミ 実はここのところ食欲もなく、栄養が足りてないかなと思いながらも、ついそうめんなどのさっぱりしたもの、冷たいものばかり食べてしまいます。
伊藤 なるほど。それはさらに夏バテの症状を悪化させているかもしれませんね。気温が急上昇すると、汗を大量にかくし食欲もなくなりがち。つい冷たいものや、さっぱりした食べやすいものばかりを摂りたくなるのはわかるのですが、体の内側を冷やし続けると、消化機能や代謝機能が低下しやすくなります。
のど越しが良いさっぱりした食事というのは、炭水化物や脂質に偏りがちなことも多いです。偏った食事のせいで、健康維持に不可欠な、タンパク質、アミノ酸、ミネラル、ビタミンが不足する場合もあります。
また、衣類についても注意が必要です。暑いとつい薄着で過ごしがちですが、特に眠るとき、肩や首回りなどを冷やしてしまうと翌朝のだるさにつながってしまいます。
ヒロミ 言われてみれば、気温が上がると、昼も夜もエアコンをかけた部屋で薄着で過ごしています。体のだるさはそんなところからきているのかな…。食生活についても、確かに栄養が摂れていないような自覚はあります。
暑さが厳しい時期、積極的に摂りたい栄養素
ヒロミ 効率的に栄養が摂れるような、夏バテ予防にいい食べ物はあるのでしょうか?
伊藤 夏休み中は子どもも家にいるし、毎日余計に忙しくて効率よく栄養を摂りたくなりますよね。ただ、栄養素としては単独でこれだけを摂ればいい、というものはないので、いろいろな食材から栄養を摂りましょう。いろいろなものを一緒に食べれば相乗効果が見込まれます。
●タンパク質
【含まれている食材】豆製品、鶏卵、肉、魚、(鶏むね肉や白身魚)など
【おすすめの理由】
タンパク質は、体内でアミノ酸に分解され、体の組織の生成に不可欠な3大栄養素の一つです。また、ホルモン、免疫物質、神経伝達物質などの素材にもなります。
体を維持し、動かすためのエネルギーをつくるのもタンパク質ですから、これが不足すると、健康な体と心が保てなくなり、夏バテの悪化につながります。
●アミノ酸
【含まれている食材】鶏卵、牛乳、肉、あじ、いわし、さけ、まぐろなど
【おすすめの理由】
アミノ酸はタンパク質の素になるのですが、特に必須アミノ酸は体内で作ることができません。タンパク質を摂るのと同時に、その素になる必須アミノ酸を積極的に摂るようにしましょう。夏バテで消化機能が弱っていると、タンパク質などの分解吸収が思うようにできません。そんなときは、アミノ酸の出番!すでに吸収されやすい形になっているため、胃腸や肝臓に負担をかけずに、体の元気を取り戻せます。
【含まれている食材】豆製品(豆腐、納豆、おから、豆乳など)
【おすすめの理由】
更年期といわれる時期は、卵巣の働きが不安定になっているのですが、大豆に含まれるイソフラボンは、卵巣のエストロゲン受容体に結合して、更年期に減少するエストロゲンの分泌を促してくれるとともに、疲労回復に導く働きがあります。積極的に摂ることをおすすめします。
●抗酸化ビタミン
【含まれている食材】
ビタミンA 緑黄色野菜(トマト、ほうれん草、ピーマンなど)
ビタミンC パプリカ、ブロッコリー、ジャガイモ、キウイ、かんきつ類など
ビタミンE ごま、ピーナッツ、かぼちゃ、アボカド、うなぎなど
【おすすめの理由】
ビタミンA、C、Eには抗酸化効果があります。特に、ビタミンCは水溶性なので、体に溜めることができないため、1日3回以上に分けて摂ることがおすすめです。
ビタミンAは緑黄色野菜からβ-カロテンの形で摂ると、体内でビタミンAに変換されます。
ビタミンEはある程度は体に溜められますが、血行が悪い方は定期的に取り入れましょう。ビタミンEは脂溶性なので、油を使って料理すると体内に吸収されやすくなりますよ。
これら抗酸化物質は、さまざまなストレスや紫外線、大気汚染などにさらされることによりできてしまう活性酸素を除去し、健康を保つためには欠かせません。更年期の症状は、ストレスにより悪化することが多いので、ストレスによるダメージを軽くする栄養素は積極的に取り入れたいですね。
ヒロミ 栄養素を摂らなくちゃとは思っていても食欲がわかない…そんなときはどんなものを食べるのがおすすめですか?
伊藤 そんなときは、できるだけ胃腸に消化の負担をかけないよう、バターや肉などの動物性脂質を避けるといいでしょう。とはいえ、タンパク質、アミノ酸、ビタミン類と抗酸化物質は体と精神の元気の源になりますから、料理を工夫してもいいですね。固形で摂るのがしんどい場合は、いろんな素材をミックスしてスープにしてしまうのもおすすめです。
ヒロミ なるほど、飲みやすいスープにするアイデアは良さそうです!早速やってみます。
夏バテ予防につながる生活習慣やマッサージ、睡眠法
ヒロミ 私たちの日ごろの生活習慣を変えて、夏バテの予防になるようなヒントがあれば、それもぜひ知りたいです。
伊藤 分かりました。それではいくつかお伝えしますね。
●入浴法
暑いからシャワーだけという方も多いかもしれませんが、夏こそバスタブに浸かりましょう。38〜40度くらいのお湯に肩まで10分前後浸かるだけでも、血行が改善されます。
●室内環境
エアコンの風を肌に直接当て続けていると、その部分の冷えと血行障害が起こり、翌朝に関節の痛みや肩こり、頭痛などが起きやすくなります。サーキュレーターなどを併用し、室内の空気を循環させましょう。
●マッサージやツボ押し
マッサージは自分でするのはなかなか難しいと思いますが、手が届く場所のツボの刺激や、ストレッチポールなどを上手に用いて、全身の滞りを改善しましょう。
エアコンによる冷えは「三陰交(さんいんこう)」(くるぶしの内側から指4本ほど上の位置)、元気と活力のツボは「丹田(たんでん)」(おへそから5センチほど下の位置)、夏バテによる全身倦怠、食欲低下には「足三里(あしさんり)」(膝のお皿の下から指4本下)など、いくつかのツボがあります。
●睡眠法
睡眠時にも、エアコンが直に当たらないようにしましょう。サーキュレーターなどで空気を循環させることで寝苦しさを軽減できます。また、やわらかめの保冷枕を枕の上に乗せて、首ではなく後頭部を冷やすようにするのもいいでしょう。
これがあれば暑い夏を乗り切れる!夏バテ対策グッズ
ヒロミ 先生、他に夏バテ予防のために準備しておくと良いグッズなどはありますか?
伊藤 では、こんなものがあると便利かもしれないというグッズをご紹介しますね。
●通気性が良く、吸湿速乾性のある部屋着
●外出時、汗をこまめに拭くために、タオル地など吸湿・速乾性の高いハンカチ2枚
●メントール成分が含まれる使い切りのボディシート(メンズ用のものの方が厚くて大きいのでおすすめ)
●塩成分、ビタミンCの入った飴やグミ
更年期の日々の生活にひと工夫!夏バテ予防のためのヒント集
ヒロミ 夏の暑さや湿度は避けられないけれど、いろいろと工夫して夏の時期を乗り切るのが大事だと分かってきました。
伊藤 そうですね。更年期症状と厳しい暑さが重なる時期は、次に挙げるようなちょっとした生活改善をして、すっきりと過ごせる工夫ができるといいと思います。
【夏バテ予防のヒント】
●普段の過ごし方
・在宅勤務や専業主婦の方は、朝の家事を一通り終えたらお風呂に入って、汗と心をリセット。
・買い物や外出は、できるだけ気温の高い昼の時間を避ける。
・ランチにスタミナがつく食事を食べる。
・夏は運動不足になりがちで、血行不良から悪化する症状もあるので、一日30分でも有酸素運動をする。
・締め付けしない下着やお洋服を選ぶ。
●時間がある日の過ごし方
・とにかく一日、のんびりと自由に過ごす。
・夏限定の趣味を見つける。
・心と体をリセットできるお出かけをする。
・更年期は人によって違いはあれど、誰にも来る通過地点に過ぎないので、同世代の友達同士、おしゃべりしてストレスを発散する。
ヒロミ 夏のつらさばかりにフォーカスしないで、更年期世代なりの夏の楽しみ方を見つけるのがいいということですね!ちょっとワクワクしてきたかも(笑)。
先生も経験した「つらい更年期」。ケアや治療、ストレス発散がカギ!
ヒロミ それにしても先生のアドバイス、すごく丁寧で具体的で分かりやすいです。
伊藤 実はね、ヒロミさん。私も更年期の経験者だからなんですよ。私自身、突然やってきた更年期症状で3~4年ほど苦しんだことがあるのです。今回のインタビューで、夏の更年期症状への向き合い方をどんなふうにお話しすべきか、すごく悩みました。私のように更年期症状が重い方がいる一方で、意外とサラッと過ごせる方もいます。人によって症状の程度に差がありすぎるんですよね。
症状が重い人には「更年期症状は誰にでも来るから」なんて言えないし、症状が軽い方には、深刻なことをいうと逆に怖がらせてしまうのではないかと思って(笑)。
ヒロミ 先生…そんなことまで考えてくださっていたんですね(涙)。
伊藤 そもそも人は、女性ホルモンだけでなく、さまざまなホルモンのバランスを保つことで成り立っています。ホルモンが一つでも急激に減少すると、その相互バランスに大きな影響が出るんです。その結果、女性の体が急な変化についていこうとして、あたふたする時期が更年期といえます。でも体は思っているよりもとても賢くて、いずれ、そのバランスを取り戻すときが来るのです。それは更年期を抜けたとき、です。
人によってその年月はだいぶ差がありますが、確実に抜け出せるときが来ます。自分の経験からは、急に光の道が見えた、霧が晴れたようなすっきりした感じかな。
ヒロミ 先生の更年期は、どんな感じだったんですか?
伊藤 私は朝起きると全身の筋肉や関節が痛くて、起き上がるのに30分くらい、やたらと時間がかかったことがつらかったです。本当にひどい時期はメンタルもダメージを受け、仕事も人間関係も何もかもしんどくて、家と職場の往復が精一杯でした。
更年期症状は、受け入れて付き合っていくしかないみたいなことを言う人もいますが、そんなふうにやりすごせるほど簡単ではないのです。実際に経験した人にしか分かり得ない、周りに見えない症状だから、つい自分の中に抱え込んでしまう。結果として、体調だけでなく心にもダメージを負ってしまうんですね。
更年期の症状は、確かに体の中のホルモンバランスが原因ですが、環境要因が大きく影響します。症状自体は一過性のものが多いので、症状を軽くするためのケアや治療が多くあることを皆さまに知ってほしいと思っています。何もしないでいるより、はるかに症状が軽くなるはずです。
つらいときに対策せずにいると、長い目で見たら、他の病気を引き起こしたり、連鎖したりする危険性をはらんでいます。今はつらくても、ずっと続くわけではない。そう思って、小さなことでも友人や専門医に相談して、なるべく悪化させる前に手を打ちましょう。
しんどかったら、一人で我慢しないことは本当に大事。仕事も家事もお休みしちゃうのも大切!同世代の女子同士で更年期ぶっちゃけトークが、実はかなり更年期症状の改善に効きますよ(笑)。そんなこんなで乗り切れたら、いつの間にか、前よりもっと輝いている自分に気づけると思います。
ヒロミ ああ…(涙)。更年期経験者の先生の実感のこもったお話、今日聞けて本当によかったです。更年期症状も夏バテもしんどいですが、更年期を乗り越えた先輩からのメッセージは心に響きました…本当に感謝です。おかげでこの夏を乗り切れそうな気がしてきました。今日は本当にありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
伊藤 まゆ 先生
M’sクリニック南麻布院長
▼詳しいプロフィールを見る
ヒロミ
45歳。夫と小学生の子ども2人の4人家族。結婚を機に仕事を辞め、現在は専業主婦となり家庭優先の生活をしている。約2年前から手足のしびれがあるほか、生理周期が短くなり、生理前には頭痛も。冷えや寝つきの悪さにも困っている。