この夏こそ始めたい!40代からのお手軽骨活のススメ

セルフケア

更年期世代の女子のお悩みを専門家に質問する「お悩み解決隊」。今回は、「骨活(こっかつ)」を取り上げます。小学生2人の母である45歳のヒロミにとって、まだ縁遠いと思っていた骨粗しょう症。しかし産婦人科医で骨粗しょう症研究の第一人者である太田博明先生によると、40代以降が骨活の始めどきとのこと。なぜこの時期から始める必要があるのか伺いました。


夏に要チェックな自覚症状「これってカルシウム不足?」

ヒロミ 暑い夏が始まり、毎日汗ばかりかいています。「夏は汗からミネラルが排出しやすい」と聞きますが、この時期はどんなことに気を付ければいいのでしょうか。

太田先生(以下、太田) 夏の汗はなめるとしょっぱいことで分かるように、ナトリウムが含まれていることが一般的に知られています。ナトリウムなどのミネラルは食事から摂取する必要がある5大栄養素の一つですが、汗とともに失われていて、ナトリウム以外にもカリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、そしてカルシウムも汗とともに流出します

夏場に起こりやすいのは“鉄不足”による隠れ貧血ですが、同時に気を付けてほしいのが“日本人が慢性的に欠乏しているカルシウムの不足”です。カルシウムは骨や歯を構成する主成分であるだけでなく、心臓を動かしたり筋肉を収縮させたりといった、生命活動の根幹に関わる重要な栄養素。血液中のカルシウム濃度が低くなると、低カルシウム血症を招くことがあるんですよ。しびれや痙攣のほか、抑うつ、忘れっぽくなる、筋肉のこわばりなどといった症状が出ることも。

また、夏バテもミネラルバランスが崩れると招きやすい症状の一つ。暑い日が続くと体温が上昇するため、体は汗をかいて体温を下げようとします。しかし、汗をかきすぎると、水分とミネラルが排出され、水分バランス、ミネラルバランスが崩れるため、夏バテの症状を引き起こす原因となります。ですから夏は、水分補給とともに、ミネラルの補給も重要になってきます。

ミネラルのなかでも、特にカルシウムは日本人に必要な栄養素の摂取量のなかで最も不足しているので、意識的に補給してください

ヒロミ 育ち盛りのうちの子たちには、骨を丈夫にするためにと乳製品を摂らせていましたが、私たち大人にもカルシウムが大切だとは思っていませんでした。

太田 特にヒロミさんのような40代以降の女性は、ホルモンバランスの変化に伴って骨密度がどんどん低くなっていきます生命維持はもとより女性に圧倒的に多い「骨粗しょう症」を予防するためにも、骨の材料であるカルシウムの充足は重要です。ぜひこの夏から「骨活」を始めていただきたいです。

▼骨活の具体策をチェックする


更年期からの骨活はどうして大切なの?

ヒロミ 確かに骨粗しょう症は女性の病気というイメージですが、もっと高齢になってからの問題だと思っていました。なぜ40代以降は骨密度が低くなるんでしょうか?

太田 骨密度の低下は、よほどでないと自覚症状はありません。しかし、骨形成を活発に促す働きのある女性ホルモンであるエストロゲンの減少により、女性は45歳前後から骨量の減少が始まります。その結果、骨粗しょう症は50代後半の女性の20%、70代後半の女性の50%が罹患するといわれています。50代で転んで手首を骨折してから骨粗しょう症に気づく人が多く、60代になると背骨の圧迫骨折が急増します。圧迫骨折は少しずつ進行するため気づきにくく、「いつの間にか骨折」ともいわれていますが、後の弊害を考えると、そんな呑気なことを言っている暇はありません。背骨の骨折に続いて起こることが多い大腿骨骨折を起こした患者さんの、5人に1人は1年以内に亡くなるというデータもあります。決して軽視できる病気ではないんですよ。

対応を後回しにしてしまうと骨密度の低下が進み、一度骨折してしまうと、そこから骨折の連鎖(ドミノ骨折)が始まることもあり、対応がより難しくなります。人生100年時代ですから、人生50年時代の骨対策では手遅れで、一生骨対策は必要になります。更年期世代ならまだまだ時間的にゆとりがあるので、後悔がないように、まさに今から取り組みましょう。骨は新陳代謝をしていて生まれ変わるので、骨をつくる栄養素をしっかりと摂り、運動して骨密度を上げる対策をしてください


早速チェック!骨の健康、あなたは大丈夫?

ヒロミ 骨粗しょう症が急に自分事に思えてきました。そもそも今、私の骨は骨粗しょう症ではないんでしょうか。自覚症状などは全くないのですが、骨密度が高い自信もないです。

太田 骨折しても分からないくらいですから、骨密度低下の自覚症状も元々ありません。まずは、簡単なチェックリストで、骨粗しょう症になる可能性が高いかどうかをチェックしてみてくださいね。そのうえで、少なくとも2つ以上チェックが当てはまるようでしたら、各自治体の骨検診や人間ドックのオプションとして骨密度検査、あるいは骨密度検診を行っているクリニックで検査を受けるといいでしょう。

【骨のチェックリスト】
小柄でやせている
・閉経が早かった
・背中が曲がってきた
・腰や背中に痛みがある
・身長が2cm以上低くなった高い棚に手が届かない
・骨粗しょう症の家族がいる

ヒロミ 高い棚に手が届かないというのは、ある気がします。腰や背中の痛みもやや気になりますし、歩いていてつまずくこともあります…。ただそれは、自分がドジなせい、肩こりや運動不足のせいなのかと思っていました。骨密度が低下しているせいだとは思ってもいませんでした。自分の骨密度を一度調べてもらったほうが安心できますね。骨密度の検査は、いつから、どのくらいの頻度で受けるといいでしょうか。

太田 自分の骨の状態を簡易的に知ることは自治体や医療機関で検査できますが、正確な診断となると、背骨や大腿骨の骨密度測定器のある病院に行く必要があります。各自治体で行っている骨密度検診は40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳の女性です。そして検査を受けるタイミングですが、早いに越したことはないので、40歳から受けるべきだと思います。人間ドックのオプションなどでも骨密度検査を追加することができますから、ぜひ一度調べてみてください。 また、検診の頻度は骨密度の程度で違います。必ずしも毎年の骨密度検査が必要としないケースかは診断すれば分かりますので、医師の判断を仰ぎましょう。


初めての骨活はここから始めよう!

ヒロミ 私も骨活をしたほうが良さそうなのは分かってきました。ですが骨活といっても、一体何から始めたらいいのやら…。まずはカルシウム摂取ですよね。

太田 骨粗しょう症の治療の基本は、カルシウムとビタミンDを常に体内に充足させておくことです。日本人が飲む水は軟水ですし、牛乳や乳製品の摂取が十分ではないため、カルシウム摂取は不足しがちです。とにかくカルシウムを十分に摂れるような食生活を考えましょう。

骨活の具体策としては以下のとおりです。

【骨活の具体策】

●カルシウムとビタミンDを積極的に摂る
栄養不足が骨折を招いてしまいます。骨の主要材料となるカルシウムや、摂取したカルシウムを血中に取り込む作用があるビタミンDなど、骨に必要な栄養をきちんと摂りましょう(詳しくは後述)。

●紫外線を浴びる
ビタミンDの80%は紫外線に当たることによって体内でつくられるため、適度に紫外線を浴びることも骨を丈夫にする対策の一つです。紫外線を避けている人は魚からビタミンDを摂取してください。ただし、食事から摂るビタミンDは、紫外線によってできるビタミンDの4分の1であることにご注意を!ビタミンDの充足には紫外線が最強なんです

●少しきつめの運動を習慣に
骨に負荷のかかる運動(かかと落とし)を毎日することが大事です。スクワットによる筋トレもおすすめ。

●早めに医師に相談し始める
骨密度検査を受け、自分の骨量を知ることが大切です。検査で数値が低かったら医師に相談し、治療を受け始めるとよいと思います。

カルシウムが含まれる小魚



骨のために摂るといい栄養素、カルシウムとビタミンD

ヒロミ まず食生活ですが、骨活のためには、具体的にどんなものを食べるといいのでしょうか。

太田 カルシウムとあわせて、カルシウムの吸収に必要なビタミンDも摂っていただきたいです。

カルシウムは、牛乳をはじめとした乳製品から摂ることができます。特に100g当たりの含有量が多いのはチーズで、チェダーチーズ740mg、ブルーチーズ590mg、カマンベールチーズ460mg、モッツァレラチーズ330mg等です。他にはカルシウム含有量が多いものとして煮干し(かたくちいわし)2,200mg、塩豆(えんどう)1,300mgが突出しています。

また、骨密度は女性ホルモンの影響を受け、閉経を機に大きく低下します。骨の健康を保つために、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンも積極的に摂るといいでしょう。

【カルシウムを多く含む食材】
・牛乳
・プロセスチーズ
・ヨーグルト
・干しエビ
・イワシ丸干し
・小松菜
・木綿豆腐 など

【ビタミンDを多く含む食材】
・鮭
・うなぎ
・さんま
・かれい など

【大豆イソフラボンを多く含む食材】
・水煮の大豆
・豆腐や厚揚げなどの大豆製品
・豆乳




骨折予防のために始めたい骨力運動とは

ヒロミ 先生は先ほど、骨活のためには運動も大事だとおっしゃっていましたが、全身運動なら骨活にプラスになりますか?

太田 骨粗しょう症に必要なのは、垂直過重方向の運動です。重力のかからない水泳や単なるウオーキング、自転車などは、生活習慣病には好ましい運動ですが、骨粗しょう症には残念ながらあまり効果がありません。骨密度を上げる運動を2つご紹介しますので、ぜひやってみてください。

【骨密度をアップさせるエクササイズ】

●かかと落とし(1セット10回、1日5セットが目標)
①足を揃えてまっすぐに立ちます。不安定なら足を肩幅に開いてもよいでしょう。手は体の横に垂らし、目線は前を向きます。
②かかとを上げてつま先立ちをします。このとき、手のひらを下にして腕をまっすぐ前方に肩の高さまで上げます。不安定になる場合は、テーブルや椅子などにつかまってもいいですよ。
③上げた腕を下ろすと同時に、上げたかかとをストンと床や地面に落として、かかとを刺激します。かかとに少し響くような衝撃を与えるとよいでしょう。
※体重の3倍(3G)の重力がかかる運動なので、骨粗しょう症などの方は主治医と相談してください。


●ミニ下方ジャンプ(1セット50回、1日1セットが目標)
①高さ10センチ程度の台を用意して、両足を揃えてその上に乗ります。つま先が少し台からはみ出すくらいの位置に乗ってください。
②ジャンプしてストンと台から前方に降ります。かかとの衝撃を意識しながら、足の裏全体で着地しましょう。このとき、ひざを曲げて衝撃を吸収するように降りるといいですよ。
※体重の4倍(4G)の重力がかかる運動なので、骨粗しょう症などの方は主治医と相談してください。


更年期から始める骨活で、健康寿命を延ばそう!

ヒロミ 先生のお話を聞いていて、これからの人生のために、すぐにでも骨活を始めなくちゃという気になってきました。

太田 日本の50歳代の女性は好むと好まざるにかかわらず、50年後には10人に1人が人生100年を迎えるといわれています。今より生命寿命が10年延びるということは、10年間健康寿命を延ばす必要があるということ。人生100年時代を健康で迎えられるよう、人生設計しなければなりません。

骨密度を上げる対策をとらずにいれば、人は必ずや骨折します。WHO(2000年)の定義では「健康寿命とは寝たきりや要介護にならず、自立して健康に生活できる期間」をいいます。人生の晩年に健康寿命を確保できる幸せは何物にも代えがたいメリットがあるはず。骨活の恩恵は言わずもがな、ですよ。

ヒロミ 確かに、寿命が延びたからといって、人生の最後に寝たきりでは人生を楽しめませんね。

太田 女性は皆さんご長寿ですが、晩年の健康格差が大きい現実もあります。この健康格差の最大の要因が、骨の骨粗しょう症化による骨折です。

骨粗しょう症の患者さんは、予備群を含めると2000万人を超えるほどいるんです。生命長寿である女性は、骨粗しょう症化によりサルコペニア(加齢などで筋肉量が減少したり筋力が低下したりすること)やフレイル(高齢による虚弱)が誘発され、転倒しやすくなって、骨折してしまう。すると健康格差はさらに拡大し、QOL(Quality of Life=生活の質)の低下はもとより、生死にも関わります。

特に大腿骨骨折は、がん・脳卒中・心筋梗塞と同等のQOLの低下を招きます。医療費もかかりますし、最悪のケースだと命も落としかねないことが、各種の疫学研究や臨床研究から明らかになっています。骨の老化の兆しである骨量低下に早めに気づければ、骨粗しょう症による骨折も回避できますし、サルコペニア・フレイルを予防し、要支援・要介護を回避することができますよ。すべての人が人生最後の10年間を、笑顔でハッピーに過ごせることを願っています。

ヒロミ 骨折して初めて骨粗しょう症に気づくのでは遅いということですね。子どもだけではなく、私たち世代の女性こそ骨を丈夫にしなくてはならないと分かりました。早速、骨に良い生活習慣を取り入れると同時に、骨密度検査をしてみたいと思います。先生、今日はありがとうございました!


<この記事を監修いただいた先生>

太田 博明 先生
川崎医科大学産婦人科学特任教授、同大学総合医療センター産婦人科特任部長
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ヒロミ 
45歳。夫と小学生の子ども2人の4人家族。結婚を機に仕事を辞め、現在は専業主婦となり家庭優先の生活をしている。約2年前から手足のしびれがあるほか、生理周期が短くなり、生理前には頭痛も。冷えや寝つきの悪さにも困っている。

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