イライラが止まらない、更年期の夫婦生活。どうすれば夫婦円満に?
更年期の読者代表のヴィーナスたちが、その道の専門家にお悩みを相談して解決する“お悩み解決隊”。今回のお題は“更年期のいい夫婦関係のつくり方”です。子どもを持たないユミコ夫婦の最近のお悩みは、ちょっとしたことで喧嘩しがちなこと。この先も夫婦仲良く暮らすための秘訣を、感性アナリストの黒川伊保子先生に伺いました。「喧嘩の原因は男女の考え方の違いにある」とは、一体どういうことでしょう?
妻も夫もイライラしがちな更年期。理由はホルモンと脳の違いにあり!
ユミコ 先生、実は最近、夫とプチ喧嘩が増えてしまって悩んでいるんです。私が更年期で不安定だからかもしれないんですが、夫も夫で口うるさく、常にイライラしている気がします。うちは夫婦二人きりの家族。ずっと仲良く暮らしたいのに、今後の生活が不安でたまりません。
黒川先生(以下、黒川) それはお困りですね。ひょっとするとユミコさんが更年期なのと同じように、ご主人も更年期で不安定な時期なのかもしれませんね。
男性は、更年期に男性ホルモンのテストステロンが減少すると、生きる気力が低下して、意気消沈しがちになります。それが原因で不安になっていらつき、小言が増え、ときにはハラスメントに至ることもあるんです。ユミコさんのご主人は、ひょっとしたらこの状況かと思いました。
ユミコ テストステロン…?初めて聞く言葉です。
黒川 テストステロンは独占欲と縄張り意識をかき立て、好戦的にさせるホルモンです。そのため、別名「愛と暴力のホルモン」と呼ばれています。また、好奇心が強くなり、「根拠のない自信」をつくり出して、脳の持ち主を冒険にいざないます。そう、テストステロンは、脳の持ち主を狩りと冒険に駆り立てるホルモンなのです。
男性の更年期は女性ほど分かりやすくはなく、年齢とともにテストステロンの分泌量が徐々に減少していき、個人差もあるようです。男性はテストステロンが低下すると、生きる気力そのものが低下します。何かに挑戦したい、走りたい、昇りたい、闘いたい、地の果てまで行きたい、この世の謎を解き明かしたい、彼女を独占したい…。そんな気持ちが薄れるわけですから、やる気も好奇心も薄れてしまう。生きることが億劫に感じられる人もいるでしょう。男性の自殺のピークは49歳といわれているので、更年期と無関係ではないのかもしれません。
ユミコ そうなんですね…!女性の更年期については理解しているつもりでいましたが、男性にも更年期の苦労があったとは。
黒川 そうなんです。ちなみに更年期に女性が攻撃的になるのにも、このテストステロンが関係しています。女性もテストステロンを分泌しており、戦いや成果主義の場所に身を置くと、男性並みに分泌量が増えるんですよ。エストロゲンの減少に伴い、テストステロンの量が増える傾向にあるのが、更年期にイライラが増してしまう理由の一つ。
また、プロゲステロンと呼ばれるもう一つの女性ホルモンが、エストロゲンに比べて減少速度が遅いために、相対的にプロゲステロン過多になり、これも情緒不安定の原因になるともいわれています。
つまり、男性は意気消沈して神経質になり、女性は女性で攻撃的になるので、原因は真逆なのに、どちらもイライラしてぶつかってしまうんですね。更年期は、男性のおばさん化&女性のおじさん化と言い換えても良いかもしれません。
「少しは俺の話も聞けよ」と言う夫、「何が言いたいの?」とイラつく妻…。夫の話が長くなる一方、妻が結論を急ぐようになったりするのも、更年期以降の夫婦あるあるのような気がします。
ユミコ うわぁ、まさに我が家です(笑)。なるほど、私たちがどうしてぶつかり合うようになったのか、少しわかった気がします。
知っておくと役に立つ!男性脳と女性脳は、根本的に違います
ユミコ ということは、更年期の夫婦に喧嘩が増えてしまうのは、ホルモンバランスの変化が理由なんですね。
黒川 いえいえ、ホルモンの変化は引き金にしかすぎません。そもそも、男女の間の考え方の溝は、本能的かつ根本的なもの。潜在化している男女間の不理解が、周産期や更年期に露呈しやすいだけなんです。まずは、男性と女性の考え方の違いを理解すること。どの年代の男女にも当てはまる考え方の違いを理解して、お互いにホルモンバランスが乱れがちな更年期に、接し方に気をつけましょう、ということですね。
ユミコ 男女間の考え方の違い、ですか?
黒川 そう。女性は男性からのちょっとした一言に対して、「なんてひどいことを言うの?」と拒否反応を示しがちですが、実は男性は女性をイラつかせようとして言っているわけではない、ということなんです。
まず女性が知っておくべきは、男性のいきなりのダメ出しと質問は、批判や攻撃じゃないってこと。男性のいきなりのダメ出しは、「大切な人を、いち早く救ってやりたい」気持ちの表れであって、批判しているわけじゃないんです。
ユミコ え、夫のダメ出しは批判ではないんですか?
黒川 そもそも男性は、結婚式で一生と誓った以上、妻をいちいち評価しません。妻たちのように「こいつ、どんな了見なんだ?」「一緒に生きていく意味ある?」なんて問うことはほぼないんです。
夫の質問は単にスペックの確認、素朴な感想であって、ほとんどの場合は、攻撃ではないの。だから「これって、冷蔵庫入れなくていいの?」に「いちいち文句言わずに、あなたが入れてよ!」といきり立たず、「そうよ。入れといてね」と言えばいいだけ。「おかずこれだけ?」「どこに行くんだ? 何時に帰る?」も嫌がらせじゃない。優しく答えれば良いだけです。
ユミコ え、それだけのことですか…?じゃあ、私が夫に対して勝手にイライラを募らせていただけ…(笑)?
黒川 そういえるかもしれません(笑)。哺乳類・鳥類・爬虫類のメスの脳には、異性のアクションをとっさに「攻撃よね!?」と疑う警戒スイッチが搭載されています。これはメスが持つ防衛本能ともいえます。特に哺乳類の場合、メスの体の負担が大きいので、オスの生殖欲求に翻弄されると、自分と子どもを守れなくなってしまう。このため、基本オスを遠ざけようと警戒態勢をとってしまうんです。
逆に、男性に言ってあげたいのは、女性はいきなりのダメ出しや質問を威嚇だと感じてイラつくので、避けたほうがベターだということ。
妻が愚痴を言ったときに、アドバイスの前に共感を示せれば、喧嘩にはなりません。
例えば…妻が見たことのないバッグを持っていたとき、つい「それ、いつ買ったの?」と言いがちな気持ちをぐっとこらえて「それ、いいね」と言うようにすれば、妻は気分を害さずに「昨日、デパートのバーゲンで買ったの」と返せますよね。
また、妻が出かけようと準備をしているときに「どこ行くんだ?」と聞かずに、「楽しんでおいで」という言葉に変えれば、妻は「買い物に行ってくる。5時には帰るね」とにこやかに返せるはずです。でも、夫はなかなかそう言えないから、妻をイラつかせてしまう。
ユミコ 確かにそうです。夫からの一言が、全部嫌味や皮肉に聞こえていた気がします。夫は言い方が下手なだけで、私を責めるつもりで言っていたわけではなかったんですね(笑)。
夫婦間のトラブルの一因は「更年期の脳の変化」。まずはお互いを理解しよう
ユミコ 男女の考え方に違いがあるうえに、さらに不安定な更年期となると、夫婦関係は常に一触即発な気もします。更年期に夫とうまくやっていくためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか。
黒川 男性は、生きる気力が強いときなら、細かいことを気にしません。どうにだってなる、いざとなればなんだってできる、という自信に満ちあふれているからです。しかし、ひとたびその気力を失えば、不安になり、細かいことが気になりだします。
不安だから、意に反したことが起こるとイラつくわけ。それは生存本能なので、しかたないと考えましょう。同情して、安心させてあげれば良いと思います。
夫にカチンとくるようなことを言われた場合も、なじられた、責められたと思わず、この人は不安で、困ってるんだと理解するといいですよ。
ユミコ なるほど、相手の言葉ではなく、心に寄り添うということですね。
黒川 更年期世代の夫婦に大切なのは“思いやり”。これに尽きます。
お互いに感性の変化期なのだとまずは認めましょう。性格が変わったのでもなく、怠惰なのでもなく、脳が新しい感覚に戸惑っていることを理解し合うこと。何かが気に障ったり、今までできていたことが急に億劫になったら、お互いにそれを素直に打ち明けて、話し合える関係になれていたらいいですね。
更年期って、気持ちやセンスや好みが変わるときだから、互いにこうしてほしいと相談し合える関係でいましょうねと、あらかじめ話し合っておくと良いと思います。
ちょっとしたひとことが大事!夫婦関係を整えるとっておきのルール
ユミコ なんだか私、夫を誤解していたような気がします。男女の違いを踏まえて接すれば、もう少し夫婦仲良く暮らせそうな気がしてきました。
黒川 ポイントは、相手の言葉を受止めるときも、自分が相手に声をかけるときも、「いきなりダメ出しをしない」に尽きると思います。相手が何か言ってきたときは、その意見を否定する前に、まずは気持ちを受止めるところから始めましょう。「分かるわ、確かにあなたの言うことは一理ある」「分かるよ、君の気持ち」「それはつらかったね(痛かったね、心細かったね)」とワンクッション置くことが大事です。
そして、できていない点を指摘する前に、できている部分をねぎらいましょう。
単刀直入に「階段の電気、つけっぱなし!」と言わずに、「お、美味しそうなカレーだね。ところで階段の電気、つけっぱなしだったけれど、何かしようとしてたの?」と言えば、言われた側はきつく感じません。また、「どうして〇〇しないの!」は「どうしたの? 〇〇してないなんて。大丈夫?」に置き換えてみる。
たとえ自分は言い方を変えられたとしても、夫が変わらず配慮に欠けるもの言いを続けるようであれば、「いきなりのダメ出しはしないルールにしない?定年退職したら一緒にいる時間が増えるわけだし、できるだけ仲良しでいたいの」と提案してみてはいかがでしょう。
あるいは、「話しかけるときは笑顔で言って。死ぬまでにたくさん、あなたの笑顔が見たいから」と言うと、きっと悪い気はせずに言い方を直してくれるようになります。人は、笑顔になると、あまりダメ出しから入らないようになるものです。この2つは、我が家で実験済みなんですよ。
ユミコ なるほど…。すごく参考になります!
黒川 また、夫婦間のコミュニケーションで大事なのは言葉がけがほとんどですが、男女の愛着が「習慣」で生まれることも覚えておくと良いかもしれません。
スキンシップがなくなった2人の場合、朝、出掛けにハグするとか、寝る前に握手をするとか、触れ合う習慣をつくると良いと思います。スキンシップがある夫婦なら、“土曜の朝は、散歩してカフェでブランチする”というような習慣でもいいでしょう。
女性にとって習慣とは、記憶をたぐりよせるときの紐のようなもの。思い出の定期預金といってもいいかもしれません。女性脳は、ふとした出来事をきっかけに、過去の関連記憶をたどる癖があります。雨の日も晴れた日も、あのときも夫とこんな風に過ごしたな。そう、ことあるごとに夫の優しい表情を思い出すことができるんです。
一方、男性脳には、定番が快感です。狩りや戦いの現場で進化してきた男性脳は、とっさの動きに対応する必要があり、身の回りが定番で固まっていると、とっさの身のこなしにブレがないので安心なのです。使い慣れた道具を愛し、床屋も蕎麦屋も変えないのはそのため。
妻との触れ合いも定番(習慣)になると、より優しい気持ちになれるんです。
ユミコ 夫婦で習慣をつくるようにすると、それがのちのち良好な夫婦関係を築く土台になるということですね…!今聞いておいてよかった。定番の習慣こそがこれからの私たちの“いい関係”につながるのなら、ぜひ今日からやってみようと思います。
更年期に夫婦関係を見直して、定年後の生活を穏やかに
ユミコ このところ、夫のことをちょっと疎ましく感じていたのですが、今日のお話で、夫に対する見方が変わった気がします。私も夫もどちらが悪いわけでもなくて、ちょっとしたボタンのかけ違いのような気がしました。今から正せば、定年後の夫婦生活も良好に送れそうです。先生、最後に夫婦関係に悩んでいる更年期女性にメッセージをいただけますか。
黒川 定年後の二人の生活の基礎は、まさに更年期のこの時期に築かれます。定年後の長い時間を、夫婦ともに心穏やかに暮らすための布石だと思って、かける言葉や態度などを今一度見つめ直すときなのです。
日常のイライラは自律神経の機能を低下させます。眠りの質が悪くなり、脳と肌の老化にも悪影響。日々の生活をイライラせずに過ごすためにも、アンチエイジングのためにも、夫婦の会話を工夫して日々楽しく暮らしてみてはいかがでしょう。
ユミコ 本当にそうですね。せっかく夫婦としてここまでやってきたのだから、更年期も乗り越えて、夫の横で笑顔で歳を重ねていきたいと思いました。まずはダメ出しから入らないようにします(笑)。先生、今日は本当にありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
黒川 伊保子 先生
株式会社感性リサーチ代表取締役、人工知能研究者
▼詳しいプロフィールを見る
ユミコ
48歳。夫との2人暮らし。自営業をしながら、自分時間も楽しんでいる。2年半前から足のしびれや股関節の痛み、胃の不調を感じている。生理周期が短くなった影響で貧血や立ちくらみの症状があるほか、動悸や汗も頻発。冷え性もひどくなってきている。