更年期の婦人科の選び方、かかり方
~かかりつけの婦人科をもつほうがよいと聞くけれど、どうやって探したらいいの? どんなときに受診を検討したらいいの?~
女性なら誰にでも訪れる更年期。けれども、不調があらわれたとき、ひとりで乗り切るのは心細い…という人も多いのでは?そんなときに頼りになるのが婦人科医です。とはいえ、婦人科で診察を受けたことがないという人にとっては、わからないことが多いもの。そこで今回は、更年期について詳しい東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期につながりたい婦人科の見つけ方や、受診時に用意すると役立つものについて伺いました。
受診のタイミングについて
<更年期にあらわれる症状は人それぞれ。自分がつらいと感じたら受診を>
―更年期にはさまざまな不調があらわれやすく、その症状のあらわれ方や強さは、人によって異なるといわれます。どんなときに受診するとよいのでしょうか。
寺内公一先生(以下、寺内) 基本的には、ご自身がつらいなと感じたら、受診を検討してほしいと思います。
ただ、いざ受診しようと心に決めても、家事の都合をつけたり、お仕事をされている方はお休みをとったりして病院にいらっしゃるわけですから、大変だと思います。けれども、つらいときはひとりで抱えすぎないほうがいいと思います。
―自分の実感としてはつらいけれど、「これくらいで受診していいのかしら」と迷う人は多いかもしれません。基準のようなものはあるのですか?
寺内 更年期の不調は大きく2つに分けられます。
・ひとつは「更年期症状」といい、症状を自覚しているけれど、日常生活に大きな支障がない場合です。未病の状態ということで、まずはセルフケアをおすすめします。
・もうひとつは「更年期障害」です。心身の症状が重く仕事や家事ができない、具合が悪くて寝込んでしまうなど、日常生活に支障をきたしている場合で、受診をおすすめします。
…と、一応このような分け方をしているのですが、「つらさ」の感じ方や受けとめ方は、ひとりひとり違いますよね。
「(日常生活の)支障」についても、例えば、症状は少しだけれど、日常生活をおくれないほど大変な場合もありますし、いろいろな症状はあるけれど、日々の生活はなんとかやりくりできている場合もあるでしょう。
更年期の不調のつらさは個人差が大きいですし、確定診断法がないので、数字のような基準があって、ここからは「更年期症状」、ここからは「更年期障害」と、はっきりと線が引けるものでもないんですね。
ですので、繰り返しになりますが、ご自身がつらいと感じて、このままだと日常生活がおくれないなと思ったら、受診を検討してほしいと思います。
婦人科の見つけ方について
<自分に合う病院探しは、がん検診や婦人科検診も上手に利用して>
―そうなのですね。確かに、更年期の不調のつらさは、ほかの人と比べようがありませんものね。更年期の不調があらわれたとき、婦人科はどのような点を大切にして選ぶといいでしょうか。産婦人科との違いはあるのでしょうか。
寺内 「産科」や「産婦人科」といった診療科名の縹ぼう(表示)は、基本的に自由ですので一概にいえないのですが、一般的には、
・「産科」は、妊婦さんの妊娠、出産、産後の診療をします。
・「婦人科」は、女性特有の疾患を診療します。月経の悩みや女性器のトラブル、子宮・卵巣の病気、性感染症、更年期障害、不妊治療などの診療をします。
・「産婦人科」は、「産科」と「婦人科」の両方の診療をします。
ただ、婦人科と表示されていても、なかには、不妊治療が主で、更年期障害の診療はしていないというところもあります。
大切なことは、更年期に理解の深い医師とつながることだと思いますので、例えば、日本女性医学学会(更年期障害から老年期の医学的諸問題まで、思春期も含め女性の一生を通じ研究する医療従事者の団体)には、「専門医・専門資格制度」があり、ホームページで、「近隣の専門医・専門資格者」を検索できますので、そこで紹介されている病院に行くのもひとつでしょう。
―更年期の不調があらわれる前から、婦人科のかかりつけ医をもつほうがよいと聞きます。
寺内 そうした心がけは大切だと思います。ただ、更年期障害の治療に限ってお話すると、更年期の不調がまだないのであれば、更年期の不調時にかかりたいと思う病院や医師と、「つながりをもっておく」ということになるでしょうか。
かかりつけ医は症状が出て、治療をする段階からということになると思います。
―つながりをもつには、どのような方法がありますか。
寺内 例えば、企業では婦人科検診を含む健康診断を、市区町村では、がんの予防や早期発見のために、がん検診などを行っていますよね。子宮頸がんや乳がんといった婦人科系のがん検診を受けるときに、更年期の不調時に受診したい病院を選ぶというのもひとつの方法です。
その病院が更年期の不調も診てくれるかどうかは、ホームページなどで事前に確認しておくといいですね。
―なるほど。それなら検診時に、病院の雰囲気も感じとれますし、先生の雰囲気もわかりますね。
寺内 婦人科検診は2年に一度、がん検診は数年に1度ですが、トータルで20~30年ほどの期間、定期的な検診を受けることが推奨されています。その期間に、おりものや月経のことで気になることがでてくれば、検診でつながった病院に相談するかもしれません。
検診や診療の経過は、その病院が把握しているわけですから、更年期の不調があらわれたときにも話がスムーズでしょう。仮に、その病院で更年期障害の診療ができない場合でも、つながりをもった病院に、より専門的な病院を紹介してもらうという流れでもいいのではと思います。
―受診してみた病院が自分に合わないと感じたら、代えてもよいのでしょうか。
寺内 代えていただいてかまいません。例えば、美容院のカットやレストランの料理が自分に合わないときは、無理に通い続けませんよね。
それと同じで、病院や医師とは相性もありますから、実際に行ってみないとわからないこともあるでしょう。受診してみて、自分には合わないなと感じたら、次の検診時は別の病院を選んでみましょう。更年期障害の治療においても同様です。
月経周期の記録について
<月経周期のゆらぎの把握は、更年期かどうかを知る大きなてがかりになります>
―婦人科や更年期外来にかかるとき、初診日は、月経周期の記録を持参するほうがよいでしょうか。
寺内 それはとても大事ですね。ときおり、血液検査で更年期かどうかを調べてほしいという方がいらっしゃるのですが、採血だけでは判断は難しいのです。
というのは、更年期は、卵巣機能の低下にともなって、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が少なくなる時期ですが、坂道のように一直線に分泌量が減っていくわけではありません。波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌したり、またあるときは少なかったりして、少しずつ減っていきます。
ですので、採血したときの女性ホルモンの値はわかっても、それだけで更年期かどうかは判断できないのです。
―そうなのですね。たまたま血液検査をした日が、女性ホルモンの値が高いタイミングだったということもありそうですね。
寺内 月経の周期が乱れているということ自体が、女性ホルモンが大きく揺らいでいるということのあらわれですから、初診日から半年間ほどさかのぼって、その間の月経周期がどうだったのか、詳しく教えていただけるととても参考になります。
例えば、「それまで毎月きちんと来ていたのに、3か月前にあったきりでその後来ていない」といった情報があれば、周期のゆらぎを把握することができます。
―月経の長さや量も記録しておくといいでしょうか。
寺内 そうですね。例えば、「月経が3か月ぶりにきたけれど、2週間ほど長く続き、その後は毎月来て、それぞれ5日ほどで終わった」など、長さや量も把握できると治療の参考になります。
―月経の記録が、女性ホルモンのゆらぎの把握に役立つのですね。月経は、周期、期間、量を記録しておくとよいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
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<インタビュアー>
満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。