更年期と睡眠の関係。改善方法を婦人科医に聞いた
更年期を迎えて、なんだかよく眠れない…と感じている人は少なくないのでは? そこで今回は、更年期の専門家である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、「更年期と睡眠の関係」についてお話を伺いました。更年期を上手に乗り切るヒントがいっぱいです!
<よく眠れないことの背景には、いろいろな要因があります!>
―更年期を迎えて、よく眠れない、睡眠の質が変わったと…という声を聞きます。女性ホルモンのゆらぎの影響でしょうか。
寺内公一先生(以下、寺内) それも理由のひとつだと思います。これまでもお話ししてきましたように、閉経を挟む前後10年(おおむね45~55歳)は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が大きく変動します。
それによって、血管が拡張したり収縮したりするバランスが乱れて(血管運動神経症状といいます)、ほてりや発汗といった症状が現れることがあります。そうした症状が夜間に起こると、睡眠に支障が出てしまうのです。
―わかります。私も一時期、寝ていたら、からだがカーッと熱くなって、汗もどっと出て、夜中に目が覚めたことが何度かありました。眠りが中断されるので、翌朝はちょっと疲れているというか、「ああ、よく寝た」という実感が得られにくかったなと思います。他にも更年期に眠れなくなる要因があるのですか。
寺内 そうですね。患者さんのお話に耳を傾けていますと、「よく眠れない」という症状のすべてを、今お話しした更年期の血管運動神経症状だけで語ることが難しく、よく眠れないことの背景には、いろいろな要因が重なっていると感じます。
―例えば、どのようなことでしょうか。
寺内 ひとつは加齢の影響です。シンプルに年齢を重ねると、男女問わず、睡眠の質は落ちる傾向にあります。そういう意味では、よく眠れなくなるのは、自然なことともいえます。もうひとつは、更年期女性の生活リズムです。そして、ストレスの問題ですね。
―生活のリズム…。確かに、更年期の女性は、介護や子育て、家事の負担が大きく、仕事との両立を考えても多忙ですね。
寺内 そうですね。眠れないと訴える方のお話をよく聴くと、例えばある方は、親の介護をされていて、1~2時間おきに痰の吸引をされているとか、また別の方は、帰宅の遅い夫を寝ずに待っていて、翌朝は子どものために早く起きてお弁当を作っているとか、そうした生活のリズムで過ごしていらっしゃるんですね。
他にもいろいろな事情を抱えている方とお会いしますが、患者さんとの対話を通じて、「今の生活リズムのままでは、よく眠れない」とご本人が気づかれても、すぐに生活リズムを変えることが難しい場合もあります。
―介護も子育ても家事も毎日のことですから、睡眠にも深く影響するのですね。ストレスの問題にはどのようなものがありますか。
寺内 更年期は、介護などの親の問題、子どもの問題、配偶者の問題、仕事の問題が一度に降りかかりやすい時期です。ひとつだけなら、なんとか乗り越えられても、ひとつひとつが、すぐに答えの出せない大きな問題です。
そうした問題をいくつも抱えてしまうと、眠ろうとしても、いろいろと考えてしまったり、不安やうつ気分が強くなったりして眠れなくなる…。無理からぬことだと思います。
―確かに更年期は、子どもの受験や就職、家族や自分の病気、身近な人の死、介護や相続、パートナーとの関係の見直し、仕事の重圧、老後の生活資金など、次々と難問が起こりやすい時期ですね。
寺内 更年期のことをお話しするときに、よくBPSモデル(バイオ・サイコ・ソーシャルモデル)、あるいは、それにスピリチュアルを加えて、BPSSモデルのお話をするのですが、
更年期と睡眠の関係についても、「バイオ(bio)身体的」「サイコ(psycho)精神的・心理的状態」「ソーシャル(social)社会的」の3つ、または「スピリチュアル(spiritual)信念・生き方」を加えた4つの側面から考えることが大切です。
例えば、よく眠れないという症状の場合でしたら、「加齢や女性ホルモンのゆらぎ、血管運動神経症状(バイオ)」「不安やうつ気分の強さ(サイコ)」「生活のリズムや家族との関係性(ソーシャル)」「どのように生きたいか(スピリチュアル)」が深く関わって形作られているという理解です。
―なるほど。夜中に目が覚めたり、いろいろ考えて眠れなくなったり、「眠れない」とひとくちにいっても、眠れない症状の現れ方やその背景はひとりひとり異なるのですね。不眠症についても教えていただけますか。
寺内 不眠症は、睡眠障害のひとつで、「入眠障害(なかなか眠れない)」「中途覚醒(途中で目が覚める)」「早朝覚醒(予定より相当早く目が覚める)」といった睡眠の問題が1ヶ月以上続き、日中に眠気などの不調が現れる病気です。ちなみに「熟眠障害(寝たつもりでいたけれど疲れがとれない)」は、一番最近の定義からは外れています。
「入眠障害」「中途覚醒」」「早朝覚醒」のなかで、更年期と特に関連していると考えられるのは「中途覚醒」です。寝ているときに熱くなって汗が出る血管運動神経症状が影響していると考えられています。
<強い眠気など、日常生活に支障がある場合は、医師とつながりましょう>
―更年期の女性で、よく眠れないと訴える方の割合は多いのでしょうか?
寺内 一概にはいえませんが、あくまでも一例ということになりますが、私たちの外来にいらっしゃる患者さんを対象にした研究によると、「重度の不眠の症状がある」「日常生活に支障がある不眠がある」「日常生活に支障はない軽度の不眠がある」「不眠の症状がない」がそれぞれ約4分の1ずつの割合でいらっしゃることがわかりました。半数以上の方が、日常生活に支障がある不眠の症状を抱えているということした。
―眠れない悩みをもつ方は多いのですね。日常生活でできる工夫はありますか。また、病院に行く目安があれば教えてください。
寺内 更年期の血管運動神経症状(ほてりや発汗)のためによく眠れない場合は、自律神経を整えるためのセルフケア、例えば、規則正しい生活、適度な運動、栄養バランスの良い食事、眠る環境を整えることから始めてみると良いのではないでしょうか。
例えば、眠る環境を整える場合、厚生労働省e-ヘルスネットの「不眠への対処法」には、「就寝・起床時間を一定にする」「睡眠時間にこだわらない」「太陽の光を浴びる」「適度の運動をする」「自分流のストレス解消法を」「寝る前にリラックスタイムを」「寝酒はダメ」「快適な寝室づくりを」といったポイントとその説明がありますので、セルフケアの参考になると思います。
―ありがとうございます。自律神経を整えるセルフケアは、不眠以外の更年期症状にも良い影響を与えてくれそうですし、眠りのポイントは、気軽に取り組めそうなものが多いです。「輝きプロジェクト」でも、更年期の不眠のセルフケアについて、情報発信をしていますね。
―また、食事の補完として、サプリメントも上手に活用できるといいなと思うのですが、先生の研究論文に、更年期症状のある女性(40~60歳の女性29人)が、女性ホルモンに似た働きをする「大豆イソフラボンアグリコン」を1日25mg、8週間摂取したところ、不眠症状、抑うつ(気分の落ち込み)症状、ホットフラッシュなどの身体症状が優位に改善したとありました(2015年)。「大豆イソフラボンアグリコン」のサプリメントを摂るのもセルフケアのひとつですね。
寺内 自分に合うセルフケアに取り組んでみて、よく眠れない症状がやわらぎ、日常生活に支障がでないようなら、そのままセルフケアを続けてみましょう。
ただし、セルフケアをしたけれど、よく眠れない状態が続き、日中の強い眠気や倦怠感、意欲・食欲・集中力の低下などの不調があり、日常生活に支障が出る場合は、ひとりで抱え過ぎずに、早めに更年期に理解の深い医師とつながりましょう。私たちの研究では、中等度以上の不眠の症状がある方の3分の1に、重度のうつ症状が見られます。その点でも、つらいときは早めに医師とつながることが大切です。
―「日常生活に支障が出るときは病院に行く」という目安があれば、行動に移しやすいですね。生活習慣の改善でおすすめのことはありますか?
寺内 そうですね。時折不眠を訴える方のなかに、お話を聴いてみると、1日20本以上、喫煙をしている方がいます。ニコチンには覚醒作用がありますので、禁煙に取り組むだけでも、睡眠の質が良くなる可能性があります。また、アルコールも、入眠時には有効ですが、特に入眠してから暫く経過した頃の睡眠の質を著しく下げてしまいますので、寝酒をやめることで、深い眠りが期待できます。
―たばこに覚醒作用があることは知りませんでした。たばこは発がん性がありますので、禁煙が望ましいですね。最後に、女性の睡眠時無呼吸症候群について教えていただけますか。
寺内 睡眠時無呼吸症候群は、眠っているうちに繰り返し呼吸が止まる病気で、日中強い眠気があります。大きないびきも特徴で、パートナーが異常に気付くことも珍しくありません。一般的には、肥満体型の男性がかかりやすい病気と思われていますが、女性も閉経後に有病率が上がることがわかっています。
ただし、女性の場合は太っていなくてもかかることがあり、顎が小さいと気道が閉塞しやすく、口腔内の筋力低下も影響しているといわれています。
―そうなのですね。日中に強い眠気が出る場合は放っておかずに、背景に深刻な病気が隠れていないか確かめることも大切ですね。今回もありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
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<インタビュアー>
満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。