更年期治療や注目のゲニステインを医師が解説
私たちが更年期症状に悩むとドアを叩く婦人科ですが、婦人科医は更年期症状で悩む患者さんをどのように診察し、治療しているのでしょうか。更年期症状の診断や治療、サプリメント選びについて、東京医科歯科大学の寺内公一先生にキッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)開発部長の和泉亨さんが、お話を伺いました。
さまざまな要素が複雑に絡み合う「更年期症状」
和泉さん(以下、和泉) 「輝きプロジェクト」の“お悩み相談室”には、更年期世代の方からさまざまな質問が届きます。「これって更年期症状でしょうか?」というご相談をはじめ、そのお悩みは千差万別です。実際にほてり、のぼせ、めまい、頭痛、肩こり、冷え、疲れやすさ等…更年期症状は多岐にわたりますよね。こうした更年期症状の患者さんに向き合う婦人科の先生は大変なのではないかと感じています。
寺内先生(以下、寺内) 医者でも、すぐには「あなたの症状は更年期症状です」と言い切れないこともあります。それは、更年期症状というものが複雑な要因が重なって起こるからなのです。
女性は閉経を挟んだ前後5年(計10年)の間に、女性ホルモンの分泌量が多くなったり少なくなったりと大きく揺らぎながら低下し続けていきます。それまできちんと生理がきていた人が、周期が短くなったり、長くなったりと、月経周期の大きな乱れとなって現れ、心身にも不調をきたすのが更年期症状です。この更年期症状については、バイオ・サイコ・ソーシャルにスピリチュアルを加えた「BPSSモデル」という考え方があります。
【更年期症状に影響を及ぼすBPSSモデル】
●バイオ(bio) 身体的な健康状態(加齢や女性ホルモンのゆらぎ、血管運動神経症状など)
●サイコ(psycho) 精神的、心理面の健康状態(成育歴や性格など)
●ソーシャル(social) 社会的な状況(家族や友人との関係や仕事、住環境、収入など)
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●スピリチュアル(spiritual) 個人の信念や生き方(どのように生きるか)
症状の強さや症状が続く期間に個人差があるのは、BPSSの要素が影響し合うからだと考えられます。更年期症状が見られたとして、それが女性ホルモン分泌量のゆらぎに原因があるのか、それとも加齢現象として、または疾病からくる症状なのかを見極めることはとても難しいので、いろいろな側面から患者さんを診る必要があります。
そして、その症状によって生活に支障をきたしているのであれば、その更年期症状を「更年期障害」ということで治療を考えていきます。
婦人科での更年期症状治療はどんなもの?
和泉 寺内先生は、こういった更年期症状が出ている患者さんにどのように対応されているのでしょうか。
寺内 まず患者さんのお話をよく聞くことです。月経の周期を尋ねることから始めて、その方のプロフィールや、心理的、社会的ストレスが何なのか、よく聞いて心を解きほぐしていくようにしています。これは症状の起こる背景を理解すると同時に、患者さんの状態や気持ちを聞くカウンセリング行為自体が治療につながると考えているからなのです。
次に、生活習慣の改善を患者さんと一緒に考えていきます。ダイエットをはじめとする食事の問題や運動不足など、不健康な生活習慣は更年期症状を悪化させるリスクになることが知られています。生活習慣を改善すると更年期症状が緩和したというのもよく聞きます。
もう一つは投薬による治療です。サプリメントや非薬物療法が功を奏さない場合、一般的にはホルモン補充療法(HRT)、漢方療法、向精神薬の使用を検討します。いろいろな治療法を同時並行で進めることもあります。
治療の際は、私たち医師が主体になって患者さんの治療方針を決めるのではなく、生活習慣の改善、サプリメント、さまざまな薬を使った治療などの選択肢を机の上に並べて、患者さんの気持ちや症状を考慮しながら一緒に治療方針を立てていきます。いわゆるシェアードディシジョンメイキング(共同意思決定)という考え方です。
患者さんと決めた治療は1カ月ほど続けて様子を見ます。イニシャルアセスメント(初期評価)と呼んでいますが、1カ月続けて全く効いていないようであれば、3カ月続けても症状の改善は見込めないだろうと考えて治療法を変えます。逆に1カ月続けて「この治療法は悪くない」「良いかもしれない」と感じられるなら、さらにしばらく続けてもらいます。3カ月経ったときにファイナルアセスメント(最終評価)として「この治療法はこの患者さんにとって非常に有効だ」となれば、そこから長期にその治療法を続けていく流れになります。
患者さんはナチュラル志向が比較的多い。サプリメントや漢方薬が人気
寺内 診療をしていて思うのは、患者さんはナチュラルな治療を希望される方が多いということです。私たち医師が、「この患者さんにはホルモン補充療法が有効だろう」と仮に判断したとしても、患者さんから「ホルモン剤みたいなものは抵抗があります」「薬には頼りたくありません」とおっしゃる方は少なくありません。薬よりナチュラルなもので対処したいという患者さんは、サプリメントを選択されているようです。
和泉 薬よりサプリメントを選びたい患者さんのお気持ちはどんなものなのでしょうか。
寺内 薬を病院で処方されている。このこと自体が自己評価を下げてしまうと感じられる方もいるのではないかと思います。「自分自身で、自分に合うサプリメントを選択して服用し、自分で体調を整えている」、つまりセルフコントロールができていることが自己評価の維持につながるのでしょう。これはそれぞれの価値観ですから、決して間違いではありません。患者さんの気持ちをまず尊重して、サプリメントから始めていただくことも少なくありません。
サプリメントで症状をコントロールできるならそれに越したことはありませんが、残念ながらサプリメントだけでは症状が改善せず、生活の質がどんどん低くなっていく方には、お薬で治療をしていただくことになります。
和泉 サプリメントが合わなかった場合、次の選択肢は薬ということになりますよね。
寺内 そうです。ただ薬を使うにしても、化学物質的な薬よりもナチュラルな漢方薬を使いたいと言われることが多いです。その理由は、漢方薬が昔から使われている自然由来の薬であること、近年開発された薬より歴史が古くて、副作用が比較的出にくいということにあるのでしょう。
しかし漢方は「実際のところ、本当に効くのか」について、エビデンスが不足しているのも事実です。近代の薬は非常に厳密な試験を経ており、効果が実証されていますが、漢方は「効くかどうかは人によって違う」薬です。「その人その人に合った漢方薬がある」という考え方なので、もし効果が感じられなかった場合、その漢方薬に効果がなかったのか、それとも処方されたものがその人に合わない漢方薬だったのか…そのあたりは判断に迷うところでもあります。
医療保険の適用のある漢方薬が約150種類ありますが、150種類を全部試すことはなく、せいぜい数種ということになると思うのです。患者さんの症状や特質を見て適切と思われる漢方薬を数種類試しても効果が期待できないとなると、他の治療法を考えることになります。
女性サポート力が強い成分「ゲニステイン」に注目
和泉 なるほど、ナチュラル志向の患者さんが多いのですね。そんな方々にとって、サプリメントの存在が大きいことがよく分かりました。薬より自然にサポートするサプリメントの存在意義を実感します。更年期の方向けサプリメントにはさまざまな成分が配合されていますが、寺内先生が患者さんにサプリメントをおすすめする際に配慮されていることがあればお教えください。
寺内 サプリメントの成分に関しては、きちんとしたエビデンスがある程度確立されたものをおすすめするようにしています。例えば大豆イソフラボンに関しては、不眠やうつ症状に対して効果があると実証されていますし、ブドウ種子ポリフェノール(プロアントシアニジン)に関しては不安症状を改善するというエビデンスがあります。
和泉 大豆イソフラボンですね。我々キッコーマンはもともと醤油づくりから始まった会社ですから、大豆については昔から着目し、特に力を入れて研究を重ねています。大豆を発酵させて得られる成分「大豆イソフラボンアグリコン」に、更年期症状の緩和効果があることをキッコーマンでも確認しております。なかでも特に女性サポート力の強い大豆イソフラボンアグリコンの「ゲニステイン」をメインの成分として丸大豆から抽出し、配合したサプリメントも商品化しています。
寺内 大豆イソフラボンアグリコンの更年期症状に対する臨床研究に私も取り組みまして、1日25mgの低用量でも更年期症状の緩和効果があることを突き止めました。大豆イソフラボンには以前より女性ホルモン様作用があることが知られておりますし、ブドウ種子ポリフェノール(プロアントシアニジン)の抗酸化作用が合わさると、更年期症状の緩和やアンチエイジング的な効果を生むのではないかということは推定できます。またゲニステインは、エストロゲン受容体との結合能力が強く、活性が高いというデータもあります。ゲニステインは私も非常に注目している成分です。
和泉 ゲニステインはそもそも食品のなかに含まれているので、よりナチュラルといえるのではないかと思っています。患者さんがよりナチュラルなものを好まれるなら、ゲニステインは安心して摂っていただける成分だなと思いました。
寺内 女性をサポートする成分としては、エクオールも有名です。エクオールは、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって代謝されるものですが、日本人の2人に1人しか体内でエクオールを産生できないといわれています。そこで、より手軽にエクオールを摂取できるようにしたサプリメントが作られています。
ゲニステインとエクオール、両者を並行して比較する試験は行われていないので、どちらが有効かを論じる意味はないのではないかと私は思います。どちらにしてもイソフラボンというものはゆらぎ世代にとっては有用だということは前提ですが、ゲニステインの効果は十分期待できるなと感じています。
また、患者さんがどのサプリメントを選択するかについては、私は患者さんにゆだねています。「自分にはこのサプリメントが合っている気がする」という気持ちが症状を緩和させることもあると思うからです。患者さん自身が、「自分にとって何が快適か」を考えて選択することに意義があるのではないでしょうか。
一般論として、サプリメントであっても粉より粒が、粒でも大きいものより小さいほうが飲みやすいでしょうし、飲む粒の数は多いより少ないほうが楽です。1日の摂取回数も、何度も飲むより1回のほうが続けやすい。そうやって皆さん、ご自身に合ったサプリメントを「お守り」として飲んでいる方がたくさんいらっしゃいます。
和泉 なるほど、患者さんが「自分には合っている」と思うことが、一番の実感につながるのかもしれませんね。また薬に抵抗を感じる患者さんにとって、サプリメントが心の支えのような存在であることもわかりました。お悩みを抱えている更年期世代の患者さんにサポートができるように、私たちもさらに研究を重ねていこうと思いました。寺内先生、今日はありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
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和泉 亨
キッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)開発部長
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