エイジングケアにも重要!更年期と抗酸化力の関係
更年期は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が大きくゆらぎながら減少する時期です。また、加齢の影響で、活性酸素から体を守る抗酸化力も低下するといいます。「活性酸素」や「酸化ストレス」の体への影響を知ることは、更年期以降も健康や若々しさを保つ上で大切です。そこで今回は、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生に、更年期と抗酸化力の関係についてお話を伺いました。
活性酸素と酸化ストレス
―「活性酸素」「酸化ストレス」は、老化に関係すると聞きます。どういうことか簡単に教えていただけますか。
寺内先生(以下、寺内) 人は酸素を吸って生きています。なぜ、呼吸するのかというと、エネルギーを得るためです。肺に取り込んだ酸素は、血液を通じて全身に運ばれます。そして、酸素を使って有機物(栄養素)を燃やし(分解し)、エネルギーに変えているのです。このことをエネルギー代謝といいます。
けれども、こうした正常な代謝の過程で酸素が変化し、副産物として「活性酸素」ができてしまいます。活性酸素は、酸化力がとても強いので、免疫機能として、体の外から入ってきた細菌やウイルスをやっつけるときには役立ちますが、一方で、パワーが強いだけに、多くなりすぎると私たちの細胞を傷つけてしまうのです。
―「活性酸素」は、体に悪いイメージがありましたが、免疫機能として役立ってもいるのですね。
寺内 大切なのはバランスです。体内には、もともと活性酸素が増えすぎないようにする「抗酸化力」が備わっています。けれども抗酸化力は、加齢の影響で低下してしまいます。
そうしたことに加えて、喫煙のように活性酸素を多く発生させるものを取り込んだり、紫外線を浴び過ぎたりすると、体内の「酸化(活性酸素)」と「抗酸化」のバランスが崩れて、活性酸素のほうが優位になり、活性酸素が細胞や組織を傷つけ始めます。そうした状態を「酸化ストレス」といいます。
酸化ストレスは、がんや心血管疾患をはじめとする様々な疾患に関与するほか、エイジング(老化)の原因と考えられています。
―そうなのですね。酸化ストレスは何歳くらいから増え始めるのですか。
寺内 厳密には、何歳以降に酸化ストレスが増えるという科学的な証明はありません。けれども、基本的な考え方として、年齢を重ねると体のいろいろなところが衰えてきますので、中高年以降に抗酸化力が低下し、それによって酸化ストレスが増えると考えてよいと思います。
また更年期は、女性ホルモンがゆらぎながら低下し、それによって不調が表れやすくなる時期です。そうした状況に抗酸化力の低下が重なると、それらが掛け算のような関係となって、不調や酸化ストレスが強くなることは考えられます。
酸化ストレスと更年期のうつ症状、骨粗鬆症との関係
―酸化ストレスが影響している更年期症状はあるのでしょうか?
寺内 2016年に、尿中に排泄される酸化ストレスマーカーを用いて、横断的多変量解析※で、更年期女性と酸化ストレスについて調べました。その結果、更年期女性のうつ症状が酸化ストレスと関連することが分かりました。
それ以前にも酸化ストレスとうつ症状に関連があることは知られていましたが、閉経期に増える酸化ストレスが、更年期のうつ症状に影響を与えている可能性が確認できたのです。
また、これは私がアメリカにいたときの研究になりますが、酸化ストレスによって破骨細胞の活性が高まることが分かりました。また他のチームの研究で、酸化ストレスによって骨芽細胞の機能が低下するという論文もありました。つまり、酸化ストレスが骨粗鬆(しょう)症に関係していることが分かったのです。
―骨粗鬆症とは、「更年期と骨粗鬆症の関係」で教えていただいた、骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気ですね。酸化ストレスが、更年期のうつ症状、骨粗鬆症に関係していたなんて知りませんでした。
※対象から得られた、ある1時点での複数の変数に関するデータをもとに、これらの「変数間の相互関連を分析する」手法のこと。
抗酸化作用のある食品・栄養素
ブドウ種子由来プロアントシアニジン&大豆イソフラボンアグリコン
―酸化ストレスを抑えるために、日常生活でできることはありますか?
寺内 手軽にできることの一つは、抗酸化作用のある栄養素を摂ることだと思います。抗酸化作用の強いものとして知られているのはポリフェノールです。ポリフェノールは植物の色素や苦みの成分で、その数は5,000種以上に及びます。
―具体的にはどのような食べ物に含まれているのですか?
寺内 ブドウや大豆、緑茶、パセリ、グレープフルーツ、ケッパーになどに多く含まれています。
―身近な食材に含まれているのですね。
寺内 はい。ブドウの種に含まれる「プロアントシアニジン」と、大豆に含まれる「大豆イソブラボンアグリコン」については、それぞれが更年期女性の健康にどのような影響を与えるのか、キッコーマン株式会社と共同研究し、発表しました。
―どのような結果になったのですか?
寺内 ブドウ種子由来プロアントシアニジンを8週間服用した女性では、不安症状の軽減、筋肉量の増加、拡張期血圧の低下が見られました。大豆イソフラボンアグリコンを8週間服用した女性では、うつ症状と不眠症状の軽減が見られました。
―大豆イソフラボンアグリコンは、植物性エストロゲンとして有名ですが、抗酸化作用の強いブドウ種子由来プロアントシアニジンも、更年期症状の軽減に期待がもてるのですね!骨粗鬆症対策については、いかがでしょうか。
寺内 骨粗鬆症対策の栄養素としては、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKが大切です。こうした栄養素に加えて注目したいのが抗酸化作用の強いビタミンE(αトコフェロール)です。
2019年に、中高年女性の食習慣調査から算出される約100種類の栄養素摂取量と腰椎骨密度との関係について調べたところ、閉経前の女性では、酸化作用の強いビタミンE(αトコフェロール)の摂取量が多いほど、骨密度が高いことが分かりました。
―骨粗鬆症予防にビタミンE(αトコフェロール)が役立つのですね。ビタミンEが多く含まれている食材には、ひまわり油、アーモンドなどがありますね。骨粗鬆症には酸化ストレスが関係しているというお話でしたので、カルシウムなどとともに、ブドウ種子由来プロアントシアニジンの摂取も習慣にできるとよいかもしれませんね。
抗酸化力を上げる生活習慣
―抗酸化力を上げるための生活習慣を教えてください。
寺内 まずは、禁煙です。喫煙のように活性酸素を多く発生させるものを取り込むのはやめましょう。その上で、栄養バランスのよい食事を心がけ、抗酸化作用の強い食品をなるべく取り入れるとよいのではないでしょうか。
―食事だけで抗酸化作用が期待できる食材を摂るのが大変なときは、食事の補完としてサプリメントを利用するのもいいですね。
寺内 はい。そして、紫外線の浴び過ぎに気を付けましょう。適度に日光浴をすると、骨密度の維持に役立つビタミンDが体内に作られますので、骨密度を維持するためにも大切です。けれども、紫外線を浴び過ぎると体内に活性酸素が増えてしまいます。
―「更年期と骨粗鬆症の関係」のお話で、運動すると骨に適度な負荷がかかり、骨を強くすることを教えていただきました。例えば、暑さが落ち着いてきたこれからの季節、秋冬はウオーキング中などに、適度に日光を浴びるのも一つですね。
体が酸化するスピードを速めないためにも、抗酸化作用のある食べ物やサプリメントも味方にしたいと思いました。今回も貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
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<インタビュアー>
満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。