ホットフラッシュは自律神経失調症?原因や治療法を解説

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「急に顔や体がほてる」「のぼせる」「汗が滝のように出て止まらない」…これは更年期に見られるホットフラッシュの典型的な症状です。ホットフラッシュは自律神経の乱れが原因の一つですが、ホットフラッシュ=「自律神経失調症」なのでしょうか。今回は、更年期に見られるホットフラッシュの原因や自律神経失調症との違い、対処法について紹介していきます。



ホットフラッシュは自律神経失調症の一つ?

自律神経失調症は自律神経が乱れることでさまざまな症状が出る状態のことで、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)はその症状の一つです。また、更年期に起こるホットフラッシュは女性ホルモンが減少し、自律神経に影響が出ることが一因。つまり、どちらのホットフラッシュも自律神経が乱れることが原因です。


■そもそも自律神経失調症とは?

自律神経とは、体温など、体の状態を正常な状態に調節するための神経ですが、この自律神経の働きに変調をきたした状態が「自律神経失調症」です。交感神経と副交感神経のバランスが乱れたり、交感神経単独、または副交感神経単独でも調子が乱れることがあります。文字通り、自律神経が失調した状態で起こる、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、冷え、動悸、下痢、などといったさまざまな症状をまとめて「自律神経失調症状」と呼びます。

自律神経失調症の原因ははっきりしないこともありますが、ストレスや生活習慣の乱れが関係しているといわれています。自律神経失調症は、どの性別、どの年代の方にも起きる可能性がある症状です。

■ホットフラッシュとは

ホットフラッシュとは、以下のような症状をさします。

・顔や頭、上半身がカーッと熱くなる
・就寝中に体がほてって目が覚める

ホットフラッシュの出方は人それぞれで、全く感じない人もいれば、1時間に何度もホットフラッシュがあり、生活に支障が出るという方もいます。汗を伴うことも多く、汗をかく部位は後頭部から首や頭が多いですが、かく量は人それぞれで、滝のように出る人もいれば、そこまで出ない人もいます。

■ホットフラッシュが起こりやすい年齢層

更年期のエストロゲン変動によって起こるホットフラッシュの場合、最も起こりやすい時期は、閉経前の月経が大きく乱れる頃から閉経後数年間です。更年期の間、ずっとホットフラッシュに悩まされる人もいれば、閉経前後の一時期だけホットフラッシュがある人もいます。

ただ、自律神経に変調をきたした場合、更年期以外でもホットフラッシュが起きる可能性があるので、ホットフラッシュが起こりやすい年齢は限定できません。



更年期にホットフラッシュになる原因

更年期のホットフラッシュも、自律神経失調症状の一つです。閉経前に女性ホルモン・エストロゲンの分泌の波が不規則になり、また分泌量も大きく乱れることで、脳の体温調節をつかさどる自律神経が変調をきたすことが原因といわれています。この症状は、ストレスによって増強される場合もあります。なお、肥満やじめじめとした季節に、ホットフラッシュがつらく感じる人が多いという傾向もあります。



更年期のホットフラッシュのセルフケア法

更年期のホットフラッシュがつらい場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、服装や持ち物での対処から、ホットフラッシュ改善のために摂るといい成分などを詳しくお伝えします。

■服装や持ち物を工夫する

ホットフラッシュは突然起こるものです。外出の際には、ほてりや発汗を感じたときにすぐに対応できるよう、調節しやすい、脱ぎ着できるような服装が良いでしょう。

素材は通気性の良いものや自分が快適だと感じられるものを選ぶのがおすすめです。また、汗をぬぐうハンドタオルがあると良いですね。

また、症状が出たときにすぐに冷やせるよう、首などを冷やすための保冷剤や携帯型の扇風機も便利です。冷やすと気持ちよい場所は人それぞれなので、自分の好きな部位に当ててホットフラッシュが治まるまでやり過ごしましょう。

なお、部屋で過ごすときは、自分の快適な温度帯の室温に設定すればOKです。

■大豆イソフラボン・ゲニステインを摂取する

大豆に含まれているイソフラボンという成分は、女性ホルモンと似た構造をしています。そのため、大豆イソフラボンを摂ると、減少した女性ホルモンの作用を補い、更年期症状を改善することが期待できます。日本産科婦人科学会によるガイドラインのなかでも、更年期のホットフラッシュには大豆イソフラボンを用いることが推奨されています

大豆イソフラボンにはいくつかの種類があるのですが、注目されているのは、糖が切り離されていて体内に吸収されやすい“アグリコン”というタイプです。イソフラボンアグリコンには、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインという3種類の成分があるのですが、なかでも体内のエストロゲン受容体への結合がしやすいのがゲニステインという成分です。

ゲニステインを含む大豆イソフラボンアグリコンを更年期女性に摂取させた臨床試験で、ホットフラッシュを含む血管運動神経症状が改善したというデータあります。つまり、ホットフラッシュの改善には、大豆イソフラボンのなかでも、特にゲニステインの摂取が有効といえます。

大豆イソフラボンは、日本人がよく食べる豆腐や納豆などの大豆製品に含まれていますが、現代人の食生活は不規則になりがちで、なかなか毎日、一定量の大豆製品を摂れないもの。そんなときは、サプリメントで手軽に摂るのも良いでしょう。ゲニステインが含まれたサプリメントなら、より体内に安定的に吸収されやすいのでおすすめです。

※日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023』 p191

大豆イソフラボン




■有酸素運動をする

更年期のホットフラッシュには適度な運動が良いといわれていますが、実際にどのくらいの運動がホットフラッシュを減らすかは分かっていません。一方、更年期の女性の健康維持のためには、有酸素運動(ウオーキングなら少し早足で30分ぐらいが目安)とともに、レジスタンス運動(筋トレ)の組み合わせが良いとされています。

運動は毎日継続するのが理想ですが、まずは無理のない範囲で、いつもより少し多めに動くように心がけると良いでしょう。

■食生活に気を使う、自分の時間を持つ

更年期以降をより健康に過ごすには、バランスの良い食生活が大事です。過度のアルコールは控えましょう。また、ストレス対策として自分の時間を持つようにするのもいいですよ。



ホットフラッシュの治療方法

更年期に該当していて、ホットフラッシュがひどい場合は、婦人科で相談することをおすすめします。婦人科では、ホルモン補充療法や漢方療法などの治療で、ホットフラッシュの改善が期待できます。

■ホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法は、女性ホルモンであるエストロゲンを少量補う治療法です。ホットフラッシュの原因が更年期のエストロゲン変動による場合、エストロゲンを補うことで高い効果が期待できます。HRTに用いるホルモン剤には、飲み薬や貼り薬、塗り薬など、いろいろなタイプがあります。婦人科の医師は、患者に合った治療法を提案してくれるので、安心して相談してみてください。

■漢方薬治療

漢方薬治療は、体をめぐる気・血・水の乱れを整えることで、不調を改善する治療法です。さまざまな生薬の組み合わせによって使用されます。ホルモン補充療法より改善がゆるやかな場合が多いですが、その人に合った処方であれば効果が期待できます。

更年期に見られるホットフラッシュによく処方される漢方薬としては、加味逍遙散(不安、不眠などの精神症状がある方など)、桂枝茯苓丸(体力が中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗があったり、圧痛を訴える方など)などが挙げられます。もちろん、自分自身でドラッグストアで購入して効果があるならそれも良いでしょう。

効果が感じられない場合は、婦人科を受診して相談してみてください。漢方をよく扱っている医師かどうかを調べるには、受診を検討している婦人科のウェブサイトを見るのがおすすめです。



早めに医師に相談して、毎日を快適に過ごしましょう

更年期のホットフラッシュがどの程度ひどくなったら婦人科を受診するのかは、その方が“ホットフラッシュで何か困っているか”がポイントになります。

・外出先で汗が出てしまうのが恥ずかしくて、外に出られない
・夜、体が熱くなって目が覚めてしまい、日中に眠くなる

ホットフラッシュで何か困ったことがあったら、回数や重さを自分で判断せずに、婦人科を受診して相談すると良いでしょう。

また、甲状腺機能異常やうつ病などでも、ほてりやのぼせなど、ホットフラッシュのような症状が出る場合があります。病気の可能性を排除して、更年期由来のホットフラッシュかどうかを確定するためにも、気になる症状があったら早めに専門医に相談しましょう。使用している薬の副作用でホットフラッシュが起こるケースもありますので、薬を飲んでいる場合は添付文書を確認してみることも大切です。


更年期のホットフラッシュはつらいものですが、大豆イソフラボン(ゲニステイン)を含む食品を摂ってみたり、サプリメントを飲んだり、有酸素運動をしてみたりと、自分に合った方法を取り入れてみてください。こうしたセルフケアに加えて、困ったときには婦人科に相談できれば万全。ホットフラッシュ症状を少しでも改善させながら、更年期の毎日を健やかに送れるといいですね。


小川 真里子先生
福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センター特任教授
日本産科婦人科学会専門医・指導医。日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門分野は女性医学(女性ヘルスケア)、女性心身症。研究テーマは女性心身症全般(PMS/PMDDなど)、更年期障害、閉経後脂質異常症。東京歯科大学市川総合病院産婦人科客員教授。アヴァンセレディースクリニック医師。

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