更年期障害になりやすい人の特徴とは?

更年期症状に悩む女性
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更年期障害は、閉経前後の約10年間、女性ホルモンの減少によって引き起こされる身体的・精神的な不調を指します。症状の出方は人それぞれで、家庭環境や仕事の状況、性格などが大きく関与しています。この記事では、更年期障害になりやすいタイプの特徴や代表的な症状、詳しい対処法についてご紹介します。周囲と協力しながら、無理せず更年期を乗り越えていきましょう。



更年期障害になりやすい人の特徴や年齢とは?

更年期になると、卵巣の機能が低下し、それに伴って脳から出る卵巣を刺激するホルモンのバランスが乱れたり、実際に女性ホルモンが分泌されなくなったりすることで、心身に不調が生じます。これを更年期症状といいます。更年期障害は、そんな更年期症状が重く、日常生活に支障をきたす状態のことを指します。更年期症状の出現には、その人の置かれている家庭環境や仕事のストレス、もともとの性格などが、大きく関与しているといわれています。理由を詳しく説明していきましょう。


更年期症状が強く出る人の特徴

更年期世代の50歳前後は、仕事の責任が大きくなるタイミングであり、子育て、子どもの受験、子どもの自立、親の介護など、環境の負荷が重なることが多いものです。そのため、どうしても頑張らざるを得ない上、更年期症状が出ても休めないそういう方に、症状が強く出てしまう傾向があります

また、更年期症状が重く出る人には頑張り屋さんが多いともいわれます。責任感が強かったり、完璧主義だったり、ストレスを感じやすかったり。「体がつらいけれど、どうしても仕事を休めない」と無理を重ねる人は、症状を強く感じてしまうといわれています。

周りの環境や自分の年齢、気力・体力が変わっているにもかかわらず、更年期以前の自分のやり方を続けようとすると、やはり無理が生じてしまいます。そこにつらさを感じないならいいのですが、十分大変な状態なのにさらに自分に鞭打って、「どうにか自分だけの力で乗り越えなくてはいけない」という責任感にかられ、つらい状況に自分を追い込んでいくのは良くありません。


更年期症状が劇的に改善した例

家族の介護を何年か一人で続け、疲弊しきってしまった患者さんの例を挙げましょう。

その方は眠れない、疲れやすいという更年期症状が出ている上に、介護で時間がないので自分の見た目に時間やお金をかけられず、髪もお肌も乾燥して大変な状態でした。「誰にも相談できなくて、なんとか時間をつくって相談に来ました」という彼女は、自分の状況を婦人科医に話しただけで「お話を聞いてもらえてよかったです」と涙が止まらなくなってしまったそうです。

そのとき処方した漢方薬はとても良く効き、保湿剤で肌の乾燥も改善したと喜んで報告してくれました。介護を離れて、定期的に自分だけの時間をとり、自分を見つめ直すようになったら、どんどん更年期症状が改善したようです。この例からも分かるように、自分を労わることが症状の改善につながるのです。


更年期障害になりやすいタイプ、なりにくいタイプ

更年期障害になりやすいタイプの方は、婦人科医への質問の仕方にも特徴があります。例えば「今困っているこの症状を改善するには、一人でどう頑張ったらいいでしょうか」というような聞き方をしてくるのですが、これは自分だけでなんとか解決しようと頑張ってしまっている証拠。でも、更年期の大変な時期は、自分一人ではなく、周りの人との総力戦で戦うべきとき。環境や性格、様々なストレスは、自分一人で頑張ってもどうにもならないことがあるので、周りを巻き込んで対応していきましょう

逆に、更年期障害をうまく乗り越えられている人は、「仕方ないよね」と年齢を重ねた自分を受け入れられる人。つらくなってきたときに、自分一人で抱え込むのではなく、いろいろな人を頼ったり、周りの友達と症状を共有して対策を立てたりしている人は、更年期障害になりづらい人といえそうです。



更年期障害にはどんな症状が見られる?

更年期障害には、身体に起こる症状、メンタルに起こる症状があります。ここでは、それぞれの代表的な症状をご紹介します。


身体に起こる症状

身体に起こる更年期症状は多岐に渡ります。女性ホルモンのエストロゲンは、更年期前まで骨や皮膚、記憶力、活力といった様々な面でサポートしてくれるのですが、更年期にエストロゲンが減ると、いろいろなところに不具合が生じやすくなります。

のぼせ、ほてり(ホットフラッシュ)、多汗
疲労感、倦怠感
○動悸、息切れ
手足・腰の冷え、むくみ
頭痛、頭重感
○生理不順
○便秘・下痢
○めまい、耳鳴り
○物忘れ、記憶力低下
○寝つきが悪い・不眠
肩こり、腰痛
○しびれ
関節痛
○頻尿、尿もれ、尿路感染症
腟炎、膀胱炎、性交痛
○ドライマウス・口臭
○白髪・細毛・薄毛
○皮膚の乾燥・かゆみ
○シワ・たるみ
○くすみ・シミ
○眼精疲労・老眼・ドライアイ
○肥満・高コレステロール
○食欲不振

婦人科で、特に患者さんから相談の多い症状を太字にしました。あまり意識されにくいのですが、関節痛や腟炎も更年期症状です。日常生活に影響があるお悩みほど、婦人科に相談にくる人が多いようです。

また記憶力の低下も、エストロゲンの低下が引き起こしている可能性があります。ホルモン補充療法等で少し回復される人もいますが、若いときと完全に同じようになるわけではないので、更年期以降は大事なことを忘れないように、普段からメモを取るなどの努力も必要になるでしょう。更年期治療も100%ではなく、良くなる部分、改善が難しい部分があるので、自分の変化を受け入れ、課題が出たら、その都度対応策を考えていきましょう

なお、急に更年期症状が出たと思ったらすぐに改善するなど、症状に波があるのはよくあることです。更年期は閉経を挟んで10年もありますから、そのときどきで悩ましい症状も変わります。「急にほてるようになったのですが、これは更年期症状が悪化したということなのでしょうか」と聞かれることがありますが、自律神経の乱れが激しくなると症状は出やすく、環境にも左右されます。自分の症状が比較的出やすいのはどのようなときか、メモをしておき、なんとなく傾向がつかめれば対策も立てやすくなります

自分の症状を人に話すと見えてくる部分もあるので、自分の殻にこもり過ぎず、友達や家族にカミングアウトするのはいいことです。そうすることで、周囲の理解も進みますし、他人から協力が得られることも。ただ、症状の重さを他人と比較するのはやめましょう。症状のつらさは人それぞれ。人と比較して症状が軽いから婦人科に行く必要はないと判断しないこと。その不調で自分がつらければ、クリニックを訪れてOKです。

ホットフラッシュも、自宅で仕事していてすぐに休めるならいいですが、接客業だとつらいはず。症状が同じでも人によってつらさは変わるので、困っている状況を婦人科医に伝えてみてください。「それなら少し早めにホルモン補充療法をしましょう」などと、その人の状況に沿った治療法を提案してくれるはずです。

注意が必要なのは、つらいめまいや耳鳴り、動悸などの症状がある場合。本当にひどい場合は婦人科以外の専門の診療科で診察してもらって、他の病気が隠れていないかを確かめてみることも大事です。問題ないといわれたら婦人科を受診して、更年期症状として対策が立てられるといいですね。


心に起こる症状

更年期には、ホルモンの変動により、情緒が不安定になることもあります。以下のような症状に思い当たることはないでしょうか。

○すぐに怒る
○イライラしてしまう
○涙もろくなる
○気力や意欲低下
○不安感に襲われる
○不眠、寝付きが浅い、眠りが浅い
○気分が落ち込む
○うつうつとする

卵巣機能が落ちてくると、脳から分泌される命令系のホルモンが強く出て、自律神経を乱すことがあります。そのため、「普段はこんなにイライラしないはずなのに、怒りの沸点が低くなっている気がする」「ちょっと指摘されるだけで凹んでしまう」「怒った後に、そんな自分に凹んで涙が出てくる」…。こうした感情の起伏を自分でコントロールできなくなるという悩みが出てきやすくなります。

こうしたメンタルの不調は、周囲の人間関係にも影響を及ぼしがちです。

「娘から『お母さん、最近怒りっぽくなっている』といわれて受診することにしました」「夫からいつもイライラしているといわれて、相談したくて」と、家族や周りの人に言われてクリニックに来る人も多いです。自分が最近、どんなタイミングでイライラしているのか、頻度はどうか、昔と比べてどうかを、冷静になったときに考える必要もあります。

また、様々なストレスを抱えがちな更年期だからこそ、いい知れぬ不安感にさいなまれることがあるかもしれません。そんなときこそ何を不安に思っているのかを書き出してみてください。更年期症状が良くなるかどうかが心配なのか、介護の行く末が心配でイライラしているのか。自分がとらわれている不安を棚卸しして頭のなかを整理すると、それに対して対策が立てられるようになりますし、すっきりします

例えば、介護のキーパーソンとなっている人の場合、自分一人で介護しているのがつらいのなら、公的な補助を使って少しでも介護の負担を軽くしてみる。すると、不安感は少し軽くなります。また、更年期症状自体がつらすぎるなら、婦人科の受診や友達に相談をするのもいい。ちょっとしたことですが、自分だけで抱え込みすぎないことが大事です。

それでも、イライラや気分の落ち込みなどの症状が続く人や頻度が多い人は、心療内科にかかることも検討してみましょう。



更年期障害の対処法とは?

更年期には体重が落ちづらくなったり、眠りが浅くなったり、疲れが取れにくかったりするため、生活習慣を整えることはとても大切。若いときと同じような生活習慣を続けると、健康を損ねることがあります。ここからは、食生活や運動、サプリメント、薬など、更年期障害を改善する方法を具体的にお伝えします。無理なくできる対処法を実践しながら、生活を整えていきましょう。


食事

不規則な食生活は、自律神経の乱れにもつながります。更年期以降の健康のためにも、食事は3食規則正しく、いろいろなものをバランス良く摂ることが大切です。なお、同じものばかりを食べるのではなく、食生活にバリエーションを持たせると、脳や心にもいい刺激になります。

更年期に積極的に摂ってほしい栄養素は以下の通りです。

○タンパク質(体や筋肉をつくる)
○ビタミン(緑黄色野菜、特にビタミンB6 は、メンタルの安定にも必要)
○ミネラル
大豆イソフラボン(女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンで、低下するホルモンの働きを補う)
○カルシウム
○マグネシウム

外食する際は、野菜や肉・魚など、いろいろな食材がバランス良く入っているメニューを選ぶと良いでしょう。更年期は太りやすく痩せにくい時期なので、脂が多いメニューはおすすめしません。

疲れたときに、お惣菜を利用するのも一つの手ですが、味が濃すぎる場合があるので、少し野菜を足して炒め直すなどの工夫をするといいと思います。また、最近は、インスタントや冷凍でもいい商品が出ているので、うまく生活に取り入れるといいですね。

食事というのは更年期症状のためだけではなく、体力や気力、生活リズムを整えるものなので、決して頑張り過ぎず、でも重要なものとして心に留めておいてください。

嗜好品に関しては、タバコはやめた方がいいでしょう。また、アルコールやカフェインは、のぼせが強くなったり、眠れなくなったりするので、必要以上に摂らないこと。

今は、昔と比べて外に働きに出ている女性が多い時代。つまり、家庭内で過ごす時間が圧倒的に少ないんです。更年期症状を抱えながら、しなければならない家事を毎日こなすには工夫が必要です。体にいい食生活を実践するときも無理をしすぎないこと。そして、ときには友達と食事に行って、ストレス発散するのもいいですね。

更年期は長期戦。閉経前後の10年をなんとか乗り切らなければいけません。日々継続できる健康の形を探していきましょう。


運動

更年期の運動には様々なメリットがあります。例えば気持ちのリフレッシュ、年々低下する筋力の維持、骨量の維持。エストロゲンが減ると、骨がもろくなりやすいのですが、運動負荷をかけると骨量は維持できます。また、更年期は太りやすい時期なので、体重を維持するためにも、運動はしたほうがいいでしょう。

更年期世代へおすすめしたいのは有酸素運動です。ウオーキングやヨガ、スイミングなど、ゆっくりと体全体を動かして血行を良くするような運動が良いでしょう。教室やレッスンなどに参加するのは少し勇気がいるかもしれませんが、試しに一度行ってみると、気持ちの切り替えになってリフレッシュできるものですよ。一人で運動する方が気楽というなら、自転車をこぐのもアリです。

運動の頻度に関しては、理想は週2~3回、1時間くらいかけてゆっくり行う運動が推奨されていますが、1時間を確保することが難しければ30分でも、または毎日ちょっとずつでもいいので、継続可能な運動をするといいと思います。

通勤の際の徒歩は、体を動かすという意味では運動にカウントできます。ただ、通勤の時間に気持ちのリフレッシュはできないと思うので、通勤とは別の時間にプラスαの運動で補完できるといいのではないでしょうか。

運動を始めたばかりのときは、皆さん誰しも「あぁ、めんどくさいな」と腰が重いのですが、1週間ほど続ければ習慣づけることができます。まずは、運動が1週間続けられたら何か自分にご褒美を。そして今度は1カ月続けてみる。ちょっとずつ自分を奮い立たせて、運動を心がけるといいと思います。


サプリメント

サプリメントのメリットは、食事だけでは摂取しきれない栄養素を効率的に摂れることです。バランスのとれた食生活を目指しているものの、栄養素が足りていないと感じることがある…。そんなときに、サプリメントは一つの有効な手段だと思います。ただし、サプリメントに頼りすぎず、食事の補助的な目的で摂るといいでしょう。

例えば、更年期女性におすすめの栄養素・大豆イソフラボン。

大豆イソフラボンは、女性ホルモンであるエストロゲンと構造が似ているので、更年期に起こるエストロゲン分泌量の低下に、補完的な役割を発揮します。大豆イソフラボンを摂ると、ほてり、のぼせのような血管運動症状や抑うつなどの精神症状なども緩和する効果があるといわれているのです。

大豆イソフラボンは、豆腐、納豆、豆乳、味噌などの大豆製品から摂取できますが、毎日一定量を食べるのはなかなか難しいもの。その点サプリメントなら、摂りたい成分を気軽に摂れますし、外出時にも持ち運べて便利です。

また、大豆イソフラボンは種類も様々ですが、エストロゲン様作用が強く、吸収性の高い成分“ゲニステイン”が配合されたサプリメントのほうが、より効果を体感しやすくなります体内に吸収しやすい“アグリコン型イソフラボン”が配合されていて、かつサポート力が強いゲニステインの比率が高いイソフラボンなど、ぜひ工夫して選んでみてください。


漢方薬

更年期の治療には漢方薬もよく用いられます。更年期障害は「肩こりも冷えも頭痛も、むくみも気になる」というように、全身に様々な症状が出ることが多いので、一つの症状の改善に特化した西洋薬よりも、全身の症状が緩和できる漢方薬が理にかなっているともいえます。

更年期症状に対する漢方薬で代表的なものは、「当帰芍薬散」と「加味逍遥散」「桂枝茯苓丸」です。

当帰芍薬散は疲れやすく、冷えが気になる方、加味逍遙散と桂枝茯苓丸は、ほてりが強い方、肩こりや発汗がある方に向いています。

婦人科では、患者さんの体質を見て、合う漢方薬を処方します。合う人は1カ月ほどで調子がいいとおっしゃいます。漢方薬は体質改善が目的。変化も分かりづらいので、少なくとも3カ月くらいは継続していただくことがおすすめです。ただ、漢方薬も副作用がないわけではないので、飲み始めて違和感がある人はすぐに中止したほうが良いでしょう。


ホルモン補充療法

ホルモン補充療法は、女性ホルモン・エストロゲンの減少で起こる更年期の不調を軽減するために、エストロゲンを補う治療法です。のぼせやほてり、多汗などの血管運動神経系の症状や、イライラや抑うつ、不眠などの精神神経系症状の緩和に効果があります。生理があるかどうか、閉経後の経過時間などを診ながら処方され、貼り薬や飲み薬、ジェル状のものもあります。汗が多くてシールが剥がれやすい人や、ジェルだとかぶれてしまう人、内服薬だと肝臓に負担がかかる人など、患者さんの体質を考えて適切な薬を処方して行います。


まとめ

更年期障害は、閉経前後10年のホルモンバランスの乱れやストレスなどが原因となり、心身に様々な不調を引き起こします。更年期障害になりやすい人には、責任感が強く、一人で一生懸命頑張ろうとしてしまうという特徴があることも分かっています。

大切なのは、無理せずに自分の年齢の変化を受け入れ、周囲の人に相談したり、頼ったりしながら総力戦で乗り越えること。対処法として、バランスの取れた食事や運動、漢方薬やホルモン補充療法を取り入れながら、自分に合った方法で症状の改善を目指すと良いでしょう。なお、大豆イソフラボンは女性ホルモンに似た働きをするので、積極的に摂ることをお勧めします。イソフラボンのなかでもサポート力の強いゲニステインを含むサプリメントを飲むのも良い方法です。

<この記事を監修いただいた先生>

三輪 綾子 先生
産婦人科専門医
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