更年期にはエストロゲンが減少する?予防策と対策を紹介
40代を迎えると、ちょっとした心身の変化を感じることが多くなります。更年期の心身の変化は、女性なら誰もが経験することですが、予備知識なしに、いきなり更年期の不調にさらされれば、普段どんなに賢く冷静な人でも、あわてふためいてしまうことがあります。更年期のゆらぎの時期にうまく対応していくためには、基本的な知識を身につけることがとても大切です。そこで今回は、更年期と女性ホルモン(エストロゲン)について、更年期の専門医である東京医科歯科大学の寺内公一先生にお話を伺いました。
そもそもエストロゲンとは?
―女性ホルモン(エストロゲン)は、体のなかでどのように働いているのでしょうか?
寺内公一先生(以下、寺内) 女性ホルモン(エストロゲン)は、例えば、乳腺や子宮、卵巣に働きかけて、女性らしさの維持や妊娠・出産に関わる他、血管、骨、神経などに作用して、女性の健康を保つために重要な働きをしています。
―そうなのですね。エストロゲンは、どのように分泌されているのでしょうか?
寺内 エストロゲンは卵巣から分泌されていますが、卵巣が勝手に分泌しているわけではありません。脳の視床下部、脳の下垂体、卵巣、子宮の4つが、お互いに影響し合いながら連携し、血中の女性ホルモンの分泌量をコントロールしています(図表1)。生物学的にいうと、生殖(リプロダクション、新しい個体を作り出すこと)の仕組みのなかで、エストロゲンが分泌されているということになります。
具体的には、下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)というホルモンが出て卵巣を刺激すると、卵胞が発育を始めるのですが、その過程で卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌され、血中のエストロゲン濃度が高くなります。
すると、それがシグナルとなって視床下部に伝わり、下垂体にも伝わって、黄体化ホルモン(LH)というホルモンが一時的に大量に放出されます(LHサージ)。それによって排卵(図表2・ア)が起こります。
そして、排卵が起こると、卵胞が黄体に変化し、黄体ホルモン(プロゲステロン)が産生されます。
子宮内膜では、受精卵の着床を待ち受けていますが、2週間経っても受精卵がやってこない(妊娠しない)と、黄体が徐々に力を失って、プロゲステロンの分泌量が下がっていきます。
プロゲステロンの低下は、妊娠しなかったことを示すシグナルとして子宮に伝わりますので、子宮内膜が剥がれ落ち、出血という形で体の外に排出されます。これが月経(図表2・イ)です。
女性のライフサイクルは、小児期(0~8歳)→思春期(8~18歳)→性成熟期(18~45歳)→更年期(45~55歳)→閉経期(55歳~)と続きます。性成熟期には視床下部、下垂体、卵巣、子宮の4つの連携がきちんと行われるため、約28日の月経周期が維持されます。
けれども、更年期を迎えると、この4つの連携が正しく行われなくなり、不規則な月経周期を経て、日本人女性の場合は平均すると51~52歳頃に閉経を迎えます。
更年期にエストロゲンが減少する理由
―閉経するとき、体のなかではどのようなことが起こっているのでしょうか?
寺内 視床下部、下垂体、卵巣、子宮のどこに閉経の原因があるのかというと、卵巣の衰えということになります。
卵胞(原子卵胞)の数は、お母さんのお腹のなかにいるときが一番多く、600~700万個あります。出生の頃には100~200万個になり、初経を迎える頃になると30~40万個になります。そして、閉経の頃には1000個未満というふうにどんどん減っていきます。
エストロゲンは卵胞が発育する過程で分泌されますので、卵胞が減るとエストロゲンは分泌されなくなり、月経も不規則になっていきます。
どのように月経が変化していくのかというと、最初は間隔が短くなり、その後長くなっていき、2~3カ月来ないなどの不順が見られます。そして振り返ってみて「そういえば月経が1年間来ていないな…」となって、その1年前が閉経の年齢となります。
―更年期を迎えて、月経が不規則になってきたら、体が閉経の準備を始めたということなのですね。体の変化に気づくと、閉経に向けて心の準備もできますね。
エストロゲンの減少を予防する方法
―エストロゲンの分泌量が減少すると、なぜ不調が現れやすくなるのですか?
寺内 卵巣にエストロゲンを出すように命令しているのは脳ですが、卵巣が命令に応えてくれないと、脳は「エストロゲンを出しなさい!」と催促します。
けれども、閉経に向けて卵胞の数は徐々にゼロに近づいていますから、脳がどんなにエストロゲンを出すように命令しても、閉経が近づくと、うまく分泌できることもあれば、がんばっても分泌できない、といった不安定な状態になり、月経も不規則になります(この時期に血中のエストロゲンを計ると、値が高いときもあれば、低いときもあるのはこのためです)。
例えばこれは、ガソリンがなくなりかけた車が止まりそうなとき、アクセルを踏むと急発進したり、動きがガタガタしたりしますが、それと似ています。
エストロゲンが十分に分泌されないと、脳はとても混乱します。その混乱が自律神経のバランスを乱し、さまざまな不調の一因となるのです。
例えば、閉経前後に現れる不調には、月経不順、顔のほてり、のぼせ、発汗、めまい、倦怠感、不眠、不安、憂鬱、記銘力(新しく体験したことを覚える能力)低下などがあります。
閉経後はエストロゲンがほとんど分泌されなくなるため、泌尿生殖器の萎縮、高コレステロール血症、心血管疾患、骨粗鬆(しょう)症、認知症といった疾患が現れやすくなります。
「エストロゲンが減少して月経が不規則になること」と「体や心の調子が傾くこと」は、密接に結びついているのです。
―更年期の不調を不安に感じる人もいると思いますが、女性ホルモンの減少を予防することはできるのでしょうか?
寺内 閉経は女性なら誰にでも訪れる自然な体の変化ですので、そうしたことはできません。
けれども、更年期への不安がふくらむときは、正しい知識を持つことで、その不安を小さくしていけるのではないでしょうか。
例えば、更年期に減少するエストロゲンは、下り坂のように一直線に減っていくわけではありません。波打つようにゆらぎながら、あるときは多く分泌したり、またあるときは少なかったりを繰り返して、少しずつ減っていきます。
そして、個人差はありますが、多くの場合、ゆらぎの時期は閉経後2年くらいで落ち着くことが多いのです。
ただしこれは、ゆらぎの時期の後に、更年期の不調がゼロになる、ということではありません。
どういうことかというと、更年期にはさまざまな不調が現れますが、それが少しずつ軽くなってきたときに、完全に症状がなくなったわけではないけれど、「これだったらやっていけそう」というところがゴールになる、ということです。
ゆらぎの時期を卒業した後は、多くの方が心身の変化と折り合いをつけて、元気に過ごしていらっしゃいます。
―そうなのですね! 更年期を無事に卒業された方がたくさんいることを知ると気持ちが明るくなりますし、正しい知識があると、過度に心配せずにすみます。ところで、更年期の不調が問題となったのは実は近年のこと、と聞いたのですが、どういうことなのでしょうか?
寺内 国連の推計によると、人類20万年の歴史のなかで、世界の平均寿命が50歳を超えたのは1960年頃です。
日本の場合は、昭和22(1947)年の平均寿命は、男性が50.06年、女性が53.96年でしたから、この60年ほどの間に、寿命が2倍に延びたことになります。
ちなみに、人類の歴史20万年を1年(365日)で表すと、平均寿命が50歳を超えたのは直近の2時間ほどで、12月31日の夜10時頃、ということになります。
―かつては、閉経を迎える前に、亡くなる方が多く、更年期障害は、長生きできるようになったからこその問題でもあったのですね。更年期障害を抱えている人は増えているのでしょうか?
寺内 増えていると思います。3年に1度行われる「患者調査*」で、「閉経期及びその他の閉経周辺期障害」の総患者数の推移を見てみますと、この10年ほどは増加傾向にあることが分かります(図表3)。近年は、コロナ禍でさらに増えた、ともいわれています。
*患者調査は、病院及び診療所(以下「医療施設」という)を利用する患者について、その属性、入院・来院時の状況及び傷病名等の実態を明らかにし、併せて地域別患者数を推計することにより、医療行政の基礎資料を得ることを目的とし、3年に1回実施される。
けれども、病院で診察を受ける方は、10分の1程度といわれていますので、多くの方が更年期障害の治療を受けていないことが推察されます。
更年期を迎えて、もし生活に支障が出るほどの不調がある場合は、一人で抱えずに、早めに更年期に理解の深い医師の診察を受けてほしいと思います。
―コロナ禍で増えた背景にはどのようなことがあるのでしょうか?
寺内 更年期のことをお話するときに、よくBPSモデル(バイオ・サイコ・ソーシャルモデル)、あるいは、それにスピリチュアルを加えて、BPSSモデルのお話をするのですが、
更年期の症状は、「バイオ(bio)身体的」「サイコ(psycho)精神的・心理的状態」「ソーシャル(social)社会的」の3つ、または「スピリチュアル(spiritual)信念・生き方」を加えた4つの側面から考えることが大切です。
例えば、更年期の症状は、「女性ホルモンのゆらぎや減少、脳下垂体の失調、加齢(バイオ)」に加えて、「成育歴や性格的素因(サイコ)」「職場の人間関係や家族との関係性、介護など(ソーシャル)」「どのように生きたいか(スピリチュアル)」といった側面が深く関わって形作られているという理解です。
それを踏まえると、今回のパンデミックは、非常に大きなストレッサーであり、それによって更年期の症状が強くなったのではないかと考えられます。
―過度なストレスは、更年期症状を強めてしまうのですね。
更年期症状への対策方法
―更年期を上手に乗り越えるためには、何から始めたらいいでしょうか?
寺内 一般的な疾患において、食生活や運動習慣が乱れていくことと、症状が悪化することは、同時に起こりやすいことが知られています。そうした点で、食習慣が乱れている方には食習慣を整えていただいたり、運動不足の方には運動習慣をつけていただいたりすることは、更年期症状を強めないことに役立つと考えられます。
―更年期におすすめの食材はあるでしょうか?
寺内 栄養バランスの良い食事をベースに、そのうえで、女性ホルモンと似た働きが期待できる大豆イソフラボンが含まれる大豆製品や、更年期以降にかかりやすくなる骨粗鬆症対策に、骨の材料となるカルシウムを多く含む乳製品や小魚を摂ることは、良いのではないでしょうか。
―食事以外のセルフケアでおすすめはありますか?
寺内 適度な運動は、リフレッシュにもなりますし、肥満予防のほか、骨を丈夫にする適度な負荷にもなりますので、良いのではないでしょうか。日中に体を動かすと、心地よい疲労感が得られ、質の良い睡眠にもつながります。
ただし、食事にしても運動にしても、完璧を目指さずに、ほどほどに、いい加減に(ちょうどよく)、上手に手を抜きながら、楽しく実践していくことが大切だと思います。
更年期対策はゲニステイン入りサプリメントもおすすめ
―更年期の女性は、多忙な方が多いと思いますが、サプリメントを活用するのも一つでしょうか。
寺内 日々の食事の補完として、利用すると良いのではないでしょうか。
―ゲニステインリッチな大豆イソフラボンアグリコンのサプリメントを活用するのもいいですね。大豆イソフラボンアグリコンは、体の吸収力が高く、ゲニステインは、ゆらぎ世代の女性をサポートする力が大豆イソフラボンのなかで一番強い成分と聞きます。ゆらぎの時期に心強いですね。
今回のお話を伺って、不安を大きくしないためには、更年期について知ることが大切だと感じました。更年期の情報を発信しているWEBサイト「輝きプロジェクト」などを通じて、更年期の正しい情報を得ていきたいですね。今回も貴重なお話をありがとうございました。
<この記事を監修いただいた先生>
寺内 公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授
▼詳しいプロフィールを見る
<インタビュアー>
満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。