【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)の副作用

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ほてりやいらだちなど、心身の不調を引き起こす更年期障害。そんなつらい症状に対する治療法の一つとして注目される、ホルモン補充療法(HRT=Hormone Replacement Therapy)には、乳がんや子宮がんなどの副作用があるともいわれています。そこで、ホルモン補充療法の副作用やリスク、それを踏まえて治療を選択するメリットについて詳しく解説します。またホルモン補充療法がもたらす効果やよくある疑問にもお答えします。


【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)の副作用

更年期症状の改善を期待してホルモン補充療法に興味はあるけれど、副作用が心配という方もいらっしゃるのでは。そもそもホルモン補充療法の副作用とはどんなもので、どの程度のリスクがあるのでしょうか。詳しくご紹介します。

ホルモン補充療法の副作用① 乳がん

ホルモン補充療法のうち、エストロゲンとプロゲステロンの併用療法を長期間続けると、乳がんの発症リスクがわずかに増加することが報告されています。それは、プロゲステロンの追加により、乳腺組織が刺激され、がん細胞が発生しやすくなる可能性があるためです。

一般的には、エストロゲン・プロゲステロン併用療法を5年以上続けると、乳がんの発症リスクが増加するとされています。具体的には5年間の併用療法で乳がんの発症リスクが1.3倍程度に増加するというデータもあります。ただし、ホルモン補充療法を中止すると数年以内にリスクは低下していくとされています。

ホルモン補充療法の副作用② 子宮内膜がん(子宮体がん)

エストロゲン単独療法を行う場合、子宮内膜が厚くなり、がんが発生しやすくなるため、子宮内膜がんのリスクが高まります。

エストロゲン単独療法を5年間継続した場合、子宮内膜がんのリスクが2倍程度になると報告されています。ただし、エストロゲンとプロゲステロンの併用でリスクは抑えられるため、子宮がある場合には併用療法が推奨されます。

ホルモン補充療法の副作用③ 心筋梗塞

60歳以上で肥満や高血圧のある方がホルモン補充療法を行うと、心筋梗塞や他の心血管疾患のリスクが増える可能性があります。これは、ホルモン補充療法によって補充されるエストロゲンが、血液の循環や凝固に影響を与えるためです。

血管は、加齢とともに硬化しやすくなり、動脈壁が厚くなることで血流が悪くなりがちです。このような状態では、エストロゲンが血液凝固因子に働きかけて血液を固まりやすくするため、血栓ができやすくなります。そして、血栓が血管を塞ぐと心筋梗塞のリスクが高まります。

さらに、肥満や高血圧といった既存のリスク要因がある場合、それ自体が血管への負担となり、心筋梗塞などのリスクが高くなっています。そこにホルモン補充療法によるエストロゲンの影響が加わることで、血管が詰まりやすくなる危険性が増します。

ホルモン補充療法の副作用④ 血栓症(静脈血栓塞栓症、肺塞栓症など)

錠剤など経口でエストロゲンを摂取する療法では、血液が固まりやすくなり、静脈血栓や肺塞栓などのリスクが増加する可能性があります。先ほど紹介したとおり、エストロゲンが血液の凝固因子に影響を与えるためと考えられています。

一般的には、経口でのホルモン補充療法を数年間行うと、血栓症のリスクが約2倍になると言われています。特に年齢が高い場合や、肥満・喫煙・高血圧といったリスク因子がある場合はリスクが高まるため、経皮でのホルモン補充療法が推奨されることが多いです。

ホルモン補充療法の副作用⑤ 心血管疾患(冠動脈疾患など)

閉経後、年齢が高くなってからホルモン補充療法を開始した場合、心血管疾患のリスクが増すことが報告されています。特に、閉経後10年以上経過してからホルモン補充療法を開始した場合、心血管疾患のリスクが増加する可能性があるため、治療は閉経直後の比較的若い段階で開始するほうが推奨されることが多いです。

ホルモン補充療法の副作用⑥ その他の軽度な副作用

ホルモン補充療法の副作用として、不正出血、乳房痛、下腹部のはり、むかつき、食欲増進、吐き気などが起こる可能性があります。

副作用としては軽度なので、基本的には減量して様子を見ますが、むかつきなどに対しては経口ではなく、経皮でのホルモン補充療法(パッチやゲル)に切り替えると、消化器への影響が減って、症状が改善することがあります。

【更年期障害治療】そもそもホルモン補充療法(HRT)とは?

ホルモン補充療法の副作用についてご紹介してきましたが、ここでホルモン補充療法についてもおさらいしておきましょう。

ホルモン補充療法とは、更年期に減少する女性ホルモンを補う治療法のこと。エストロゲンのみを補う方法と、エストロゲンとプロゲステロンの両方を補う方法があります。エストロゲンのみ補う方法は、子宮を摘出した女性に適用されることが多く、子宮がある場合はプロゲステロンも併用することで子宮内膜の過剰増殖を防ぎます。

更年期には女性ホルモンが急激に減少し、ホットフラッシュ(ほてり)、発汗、イライラ、不眠、骨密度の低下など、さまざまな症状が現れることがあります。ホルモン補充療法は、減少した女性ホルモンを体内に補うことで、更年期症状を緩和し、生活の質を改善することを目的としています。

<更年期障害の症状の例>

●のぼせ、ほてり、多汗
●疲労感、倦怠感
●動悸、息切れ
●手足、腰の冷え、むくみ
●頭痛、頭重感
●めまい、耳鳴り
●肩こり、腰痛
●しびれ
●関節痛
●頻尿、尿もれ、尿路感染症
●膣炎、膀胱炎、性交痛
●便秘、下痢
●食欲不振


【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)のメリット

ホルモン補充療法のメリットは、ほてりや発汗、イライラ、不眠といった更年期特有の不快な症状が軽減され、日常生活が快適に送れるようになること。ほかにもホルモン補充療法は、骨密度の低下を抑えて骨粗しょう症や骨折のリスクを減らしたり、肌のハリや潤いを保ったり、乾燥やかゆみを緩和したり、膣の乾燥感や尿道の不快感を軽減したりすることで、生活の質が向上します。

さらに、ホルモンバランスが安定することで気分の浮き沈みや不安感も和らぎ、精神的にも安定しやすくなります。

【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)の具体的な治療方法

ホルモン補充療法では、急激に減少した女性ホルモンを最低限補うことで不調の軽減を図ります。

一般的に、閉経に近い年齢であれば比較的少量で効果が出やすいですが、閉経後しばらく経過している場合には、必要に応じて投与量は調整されます。特に、高齢になると血栓リスクが高まるため、量や投与経路には注意が必要です。

投与経路には、飲み薬、貼り薬、塗り薬などがあります。これらは、患者さんの症状や年齢、月経の状態、ライフスタイルに応じて、適切な種類や投与方法が選ばれます。

ホルモン補充療法の種類

1.飲み薬(経口薬)

●メリット
手軽に服用でき、体内に均等にホルモンが行きわたります。

●この治療法が向いている人
定期的な摂取が可能な方

●注意点
肝臓で代謝されるため、肝機能に負担がかかる場合があります。血栓リスクも増加するため、血栓症や肝臓に問題がある方には適していません。

2.パッチ剤(貼り薬)

●メリット
肝臓を通さず血中に直接ホルモンが吸収されるため、肝機能への負担が少なく、血栓リスクも低いとされています。また、長期間(1〜2週間)貼るだけで効果が持続するタイプもあり、服用忘れが少なくなります。

●この治療法が向いている人
肝臓に負担をかけたくない方や、服用忘れが気になる方、60歳以上で肥満、高血圧の人

●注意点
肌が敏感な方は、かぶれやかゆみなどの皮膚トラブルが出ることがあります。また、貼り直しや交換が必要なため、肌へのケアも必要です。

3.塗布剤(ゲル)

●メリット
肝臓を通さずに吸収されるため、肝臓への負担が軽く、血栓リスクも少ないです。使い切りのタイプも多く、パッチ剤よりもかぶれにくいです。

●この治療法が向いている人
毎日塗る時間を持てる方や、パッチ剤で肌トラブルが出やすい方に向いています。

●注意点
毎日の塗布が必要で、手間がかかります。塗った部分が服や肌に触れないように乾くまで注意が必要です。

4.その他

上記のほか、膣や外陰部の乾燥感、かゆみ、排尿トラブルなど、局所的な更年期症状の場合に膣錠を使用する場合があります。

【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)の注意点

ホルモン補充療法は、更年期障害治療への効果が期待できますが、ホルモン補充療法を受けることができない人や、慎重に行う必要がある人もいます。2017年度版『ホルモン補充療法ガイドライン』を参考にご紹介します。


ホルモン補充療法(HRT)を受けることができない人

以下の事項に当てはまる方は、ホルモン補充療法を受けることができません。

【ホルモン補充療法を受けることができない症例】

●重度の活動性肝疾患
●現在の乳癌とその既往
●現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜間質肉腫
●原因不明の不正性器出血
●妊娠が疑われる場合
●急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
●心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
●脳卒中の既往

ホルモン補充療法(HRT)を慎重に検討する必要がある人

以下の事項に当てはまる方は、ホルモン補充療法を受ける際には慎重に検討する必要があります。

【ホルモン補充療法を慎重に検討する必要がある症例】

●子宮内膜癌の既往
●卵巣癌の既往
●肥満
●60 歳以上または閉経後10 年以上の新規投与
●血栓症のリスクを有する場合
●冠攣縮および微小血管狭心症の既往
●慢性肝疾患
●胆嚢炎および胆石症の既往
●重症の高トリグリセリド血症
●コントロール不良な糖尿病
●コントロール不良な高血圧
●子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
●片頭痛
●てんかん
●急性ポルフィリン症
●全身性エリテマトーデス(SLE)

【更年期障害治療】ホルモン補充療法で改善されない症状への対策

ホルモン補充療法は更年期症状を改善するのに有効ですが、全ての症状が改善されるわけではありません。例えば、ホルモン補充療法で改善しにくいものとして、以下のような症状があります。


●心理的な不調(不安・うつ)、睡眠障害(不眠)
カウンセリングや認知行動療法が有効です。必要に応じて抗うつ薬や睡眠導入薬、リラクゼーション法などを取り入れることもあります。

●関節・筋肉の痛み
軽い運動やストレッチ、温熱療法(ホットパックなど)を取り入れると症状の軽減につながることがあります。また、症状に応じて鎮痛薬を利用することもあります。

●骨密度の低下
ホルモン補充療法は骨密度低下の進行を抑える効果はありますが、それだけでは十分ではない場合もあります。その際は、カルシウムやビタミンDのサプリ、骨密度を高める薬が処方される場合もあります。また、ウォーキングや筋トレなどの運動もおすすめです。

●尿失禁・膀胱機能の低下
骨盤底筋トレーニングや理学療法が効果的です。重症の場合は、薬や手術が検討されることもあります。



更年期の症状の緩和には、規則的な運動や十分な睡眠、そしてストレス管理も欠かせません。運動や食生活の見直し、漢方薬の活用など、多くの人にとって取り入れやすいアプローチをご紹介します。

●運動
有酸素運動や筋力トレーニングは、気分を安定させるだけでなく、骨密度の維持にも効果的です。

●食生活
バランスの取れた食事を心がけましょう。特に骨粗しょう症予防につながるカルシウムやビタミンDを積極的に摂ると良いでしょう。

また神経安定に寄与するビタミンB群も、更年期の疲労やイライラ緩和に有効です。食事からの摂取とともに、サプリメントで補うのも手軽で効果的な方法です。

植物イソフラボンとして有名な大豆イソフラボン(ゲニステイン)の摂取も欠かせません。大豆イソフラボン(ゲニステイン)は、女性ホルモンに似た働きをし、ほてりや発汗の軽減に効果が期待できます。ホルモン補充療法を始めることに抵抗がある方は、まずは働きがマイルドな大豆イソフラボン(ゲニステイン)をサプリメントで摂取してみるのもひとつの方法です。

●漢方薬
漢方薬も更年期症状に効果が期待されます。例えば「加味逍遙散(かみしょうようさん)」は、イライラやのぼせに有効とされ、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」は冷えやむくみに効果的です。


【更年期障害治療】ホルモン補充療法(HRT)のよくある疑問

ここからは、女性ホルモン補充療法に関するよくある質問を取り上げ、副作用のリスクや具体的な治療法、安全に治療を進めるポイントについて詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

Q.ホルモン補充療法で髪の毛は増える?

ホルモン補充療法で女性ホルモンが補充されると、髪の健康が改善され、髪の毛が増える可能性があると考えられます。

更年期以降、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により、髪が薄くなる、抜け毛が増えるなどの症状が出やすくなります。ホルモン補充療法で補うエストロゲンは、髪の成長サイクルを安定させる働きがあります。また、ホルモン補充療法によりホルモンバランスが整うことでも、髪の成長がサポートされます。

ただし、ホルモン補充療法は更年期治療が主眼であり、発毛の治療法として推奨されるわけではありません。発毛や薄毛の治療を目的とする場合は、専門の医師に相談して適切な治療法を検討してください。

Q.ホルモン補充療法はパッチ剤(貼り薬)が便利だと体験談で見たけど、本当?

本当です。

ホルモン補充療法のパッチ剤(貼り薬)は、飲み薬(経口薬)とは異なり、ホルモンが皮膚を通じて直接血流に取り込まれるため、胃腸や肝臓への負担が少ないというメリットがあります。また、貼り換え頻度も週に2~3回程度で、多くの方にとって扱いやすい選択肢です。

しかし、見た目の問題や、肌が敏感な方ではかぶれやかゆみ、皮膚の赤みなどの副作用が出ることがあります。

また貼り薬は、ホルモンの種類や投与量が限られるため、症状や体質に合わせた調整がしにくい場合もあります。細かくホルモン量を調整したい場合には、経口薬の方が向いている場合もあります。

Q.ホルモン補充療法中に、大豆イソフラボン(ゲニステイン)のサプリメントを併用していい?

ホルモン補充療法(HRT)を行っている間に、大豆イソフラボン(ゲニステイン)のサプリメントを併用する場合は、注意が必要です。大豆イソフラボンは、体内でエストロゲンのように働くため、エストロゲン作用が過剰になるリスクがあるからです。 特に、ゲニステインはエストロゲン受容体に強く作用し、エストロゲンの効果を増強する可能性があるため、ホルモンバランスへの影響が心配されます。

一般的に、大豆イソフラボンの安全な1日の摂取量は、食品やサプリメントを含めて70~75mg程度とされています。例えば、豆乳1杯(100mg)には約25mgのイソフラボンが含まれています。ホルモン補充療法中に、食品からの摂取に加えて、サプリメントによって追加のエストロゲンを摂取すると、過剰摂取になる可能性があります。一部の研究では、1日100mgを超えるイソフラボンの長期摂取は、乳腺や子宮内膜に影響を与える可能性が示されています。

例えば、ホルモン補充療法と大豆イソフラボンサプリメントを併用すると、乳腺の張りや不正出血のリスクがわずかに高まるともいわれています。またホルモン補充療法を受けている方が、大豆イソフラボンサプリメントを長期間併用すると、わずかですが乳がんリスクが増加するともされています。

そのため、ホルモン補充療法を受けている方が大豆イソフラボンのサプリメントを利用する際は、慎重な対応が必要です。医師の指導を受けながら、摂取量や期間を適切に管理し、安全な範囲で活用しましょう。

まとめ

ホルモン補充療法は、更年期症状の改善に大きな効果をもたらす治療法ですが、リスクを理解し、安全に行うことが重要です。副作用について正しい知識を持ち、医師と相談しながら適切な方法を選択しましょう。また、治療だけに頼らず、生活習慣の改善や運動を取り入れたり、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボン(ゲニステイン)を含むサプリメントを飲んでみたりして、健康な更年期を送ってください。


<この記事を監修いただいた先生>

秋津 憲佑 先生
キッコーマン総合病院 産婦人科部長
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