更年期から考える介護のハナシ①親に介護が必要になったらどうする?

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親の老後について、そろそろ考えたいと思っていても、日々の忙しさに追われて、なかなか一歩を踏み出せずにいる更年期女性は多いと思います。けれども、親の進む道は、いずれ自分も歩んでいく道。更年期は、親の介護の向こうに、20年、30年後の自分の姿を重ねて、自分の老後のためにできることを始めるのにも良いタイミングです。そこで今回は、春日クリニック院長で、長年更年期女性を応援し続けている清田真由美先生に、更年期と介護についてのお話を伺いました(全3回)。更年期からその先に訪れる老年期を上手に乗り切るためのヒントがいっぱいです!



更年期は、老化のスイッチが入るターニングポイント

清田先生(以下、清田) 今から40年ほど前のことですが、医学部を卒業してすぐの頃のことです。ある病院へ診療のお手伝いに行った際、いわゆる寝たきりの患者さんが多くいらっしゃる病棟があり、その8割が女性だったのです。

地域に寄り添う内科のお医者さんとして、多くの人の病気を治したい!という強い想いをもち、夢に燃えていましたので、多くの高齢女性たちがベッドに横になっている様子を目の当たりにして衝撃を受けました。私もいつか寝たきりになって天寿を迎えるのかな…と、非常に驚いたのです。

そして、もう一つショックだったのは、そうした高齢女性たちのケアを懸命にしていた方の多くが、更年期の女性たちだったことです。家族のマネジメントを一手に引き受けて、更年期の不調などでつらくてもそれは後回しにして、懸命に家族の世話をし続けている方ばかりでした。そのとき、更年期の女性を支えたいと思い立ちました。

清田 はい。それからは、外来診療で老年期※1、更年期の女性に寄り添いながら、寝たきりを予防する手立てはないか、更年期女性の不調を和らげる方法はないか…と専門とは別に勉強を始めました。すると、当たり前のことなのですが、更年期の延長線上に老年期があり、女性の寝たきりの原因が更年期から始まっていることに気づいたのです。

更年期から始めた健康への取り組みは、健康な老年期の土台になります。更年期は、老化のスイッチが入るターニングポイントなんですね。ですので、今、目の前にいる更年期女性たちが年齢を重ねても、寝たきりにならず元気に過ごせるように、という思いで応援を続けています。

※1  女性のライフサイクルの一つで、更年期が終わった50代半ば以降の時期をさします。



寿命が長い女性だからこそ、更年期からの健康が大事になります

清田 はい。先ほどお話しした更年期の女性たちのように、更年期は、自分のことを二の次三の次にしがちな時期なんですね。例えば、子育て中の方は育児をし、お孫さんがいる方は孫の面倒もみて、自分や夫の両親の世話もし、夫が病気になって入院したらそのケアもして、お仕事を持たれている方は仕事もされて、地域では頼られて…と、複数のことを同時にされています。自分にかけられる時間的な余裕がない方がとても多いのです。

そうした女性のなかには、親の介護を優先して、自分のことを後まわしにしたために、ご自身の病気の発見が遅れてしまったという悲劇もあります。

更年期は女性ホルモンのゆらぎによって自律神経が乱れ、不調が現れやすい時期です。けれども、もしかしたら、不調の陰に大きな病気がかくれているかもしれません。少なくともかかりつけの病院で、定期的に健診・検診をして、自分の健康にも目を向けてほしいと思います。

清田 今、病気になっていなくても、骨粗鬆(しょう)症につながる骨の分解や、脳血管疾患につながる血管へのダメージなどは、更年期から着実に始まっています。

また、女性が要介護になる原因は、男性と違う点にも注目してほしいと思います。女性が介護を必要とする要因で最も多いのは認知症(19.9%)、次いで骨折・転倒(16.5%)、関節疾患(14.2%)と続きます。

男性で最も多いのは脳血管疾患(脳卒中)(24.5%)、次いで認知症(14.4%)、高齢による衰弱(11.3%)と続き、骨折・転倒は6.3%です。

清田 更年期を過ぎると、女性は骨粗鬆症になるリスクが高くなります。将来、骨折・転倒で要介護になりやすいことを知っていれば、更年期やその前から、骨粗鬆症予防をしていくことができます。

また、早期に発見できれば、強い薬を使わずに、大豆イソフラボンやビタミンD、カルシウムなどでケアしていくこともできます。また、肥満や高血圧の予防、禁煙は、脳血管疾患の予防につながります。



親が歩んでいる道は、いずれ自分も歩む道

清田 親子は弱いところが似る傾向があり、更年期症状も親子で似ることが多いと感じます。

ある日、お母さんと娘さんとで更年期外来を受診してくださった方がいて、お母さんが「自分が更年期の不調でつらいときに診ていただいたから、娘も先生に診てもらいたくて連れてきました」とおっしゃって。お母さんが更年期のときは、お母さんに合う治療法が見つかるまでに、半年くらいかかったんですね。

そして、今回娘さんを診察してみると、症状がお母さんとよく似ていました。お母さんに合った治療法でアプローチすると、娘さんにもすぐに効いて、3~4週間ほどで症状が落ち着つきました。

そのとき、娘さんが喜ばれて、「先生は魔法使いだ」っておっしゃってくださったんですけれど、そうではなくて、その方のお母さんのおかげなんですよね。ですので娘さんには、「私にあなたのお母さんの更年期に寄り添った経験があったから、あなたのことが分かったのよ。お母さんに合った治療法が、あなたにも効いたのだと思う。お母さんに感謝してね」と伝えました。

母娘で似ている方ばかりではありませんけれども、ご家族と体質は似ることが多いように思います。

清田 介護の面では、筋力や認知の変化など、親子で似たコースをたどる方が多いと感じます。

介護は介護保険や医師、介護のプロの手を借りて、一人で抱えずにしてほしいのですが、それでも、気力も体力もいることですし、予備知識のない状態で、突然介護が始まると、分からないことは介護をしながら対応していくことになります。

また、親が元気でも、更年期は大きな病気にもなりやすい時期ですし、更年期症状でひどく落ち込んでしまうと、介護について勉強する余裕がなくなります。

そういった意味でも、親の介護を意識し始めたら、「介護ってどういうものなのかな」「万一骨折したら、どの先生に診てもらうのがいいかな」と、介護の情報を集めて、「どんな介護がベストなのだろう」といった勉強を始められると良いですよね。親御さんにベストなサービスを届けたいという想いが、ゆくゆくは自分に合う介護につながっていくと思います。

自分の老後はまだまだ先だと感じている方が多いと思いますが、自分も親と同じスピードで老化しています。今目の前にいる親御さんは、まさに20~30年後の自分かもしれない、親のことだけではなく自分のことも予習しているんだ、と考えられると、すべてが学びになり、大変さも半分になるのではないかなと思います。



親の介護は、ある日突然始まることがあります

清田 大きく分けて、緩やかに始まるケースと、突然始まるケースがあると思います。

清田 フレイル※2や認知症が多いと思います。どちらも進行する前に、早めに適切な予防策を講じることで、進行を遅らせることができます。

清田 高齢期の「虚弱」のことを「フレイル」といいます。年齢を重ねて、筋力が衰えたり、うつ状態や認知機能が低下したりするなど、心身の機能が衰えた状態のことです。また、孤立するなど、社会とのつながりが希薄になった状態のことも含みます。

フレイルは、健康な状態と要介護状態の間の段階のことで、早期であれば、食事や運動、リハビリなどを通じて、フレイルの進行を遅らせたり、健康な状態に戻ったりすることができます。

※2 体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の5項目のうち、3項目以上の該当で診断される。

清田 認知症には、MCI(Mild Cognitive Impairment/軽度認知障害)といって、認知症でも健常な状態でもない、認知症と健常な状態の中間のような状態があります。MCIは、1年で約5~15%の人が認知症に移行しますが、その一方で、1年で約16~41%の人が健常な状態に回復しています。また、認知症に移行せずに、MCIの状態を維持する人もいます。

清田 そうですね。そういうときは、私は患者さんとの対話を重ねます。「今、あなたが、認知症と言っているわけではないのですよ」「認知症にしたくないから、脳を使うリハビリをしましょうとお話しているんですよ」と。

認知症予防の脳を使うリハビリは、医療保険ではなく介護保険で行いますが、介護保険の「介護」という言葉のなかには、実は医療も含まれていて、治療を兼ねたリハビリ、予防対策も含まれています。

ですので、「病気がひどくならないように予防のことまで、介護のなかに含まれているんですよ」「治療の一環ですよ」「認知症を予防するための介護保険なんですよ」ということを丁寧にお話しすると、親御さんも少し理解なさってくれます。

清田 多くの場合、脳梗塞や骨折・転倒がきっかけで起こります。特に女性は、さっきまで元気だったのに、ふとした拍子に転んで、例えば大腿骨頸部(太ももの付け根の骨)を骨折し、長期の入院が必要になることがあります。

骨折すると暮らし方も大きく変わります。例えば、骨折で歩行が難しくなると、それまで、お一人で歩いて行けていた食材の買い出しができなくなりますし、着替えや入浴、トイレなどにおいても、誰かの手を借りなければいけません。

また、リハビリをして歩けるようになってから退院した方でも、歩くことが怖くなり、家に閉じこもりがちになる方もいらっしゃいます。



最初に相談したいのは、地域のかかりつけ医

清田 まずは、地域のかかりつけ医に、ご相談されると良いと思います。

その上で、市区町村の役所の窓口に要介護認定の申請をされると良いと思います。申請をもとに、親御さんの心身の状態を調べる訪問調査が行われ、かかりつけ医の意見書とともに判定が行われます。そして介護保険の要支援・要介護認定が決まります(認定は要支援1・2から要介護1~5までの7段階)。申請から認定の通知までは1カ月ほどかかります(原則30日以内)。

介護サービスを利用するには、ケアプラン(介護予防・介護サービス計画書)を作成する必要があります。要支援1・2のケアプランは、地域包括支援センターに相談し、要介護1~5のケアプランはケアマネジャー※3のいる居宅介護支援事業者へ依頼します。そうしてはじめて、介護サービスが始まります。

※参考:介護サービス利用までの流れ(厚生労働省)

清田 例えば、骨折などで突然介護が必要になったときは、まだ介護認定を受けていませんので、ケアマネジャーはついていません。

そこで、力になるのがかかりつけ医なんですね。介護認定を受けるには、かかりつけ医に「主治医意見書」を書いてもらう必要があります。

先ほどの骨折の例でいえば、いよいよ介護か…とあわててしまいがちですが、まずはかかりつけ医に相談してほしいと思います。

骨折をどう直して、どう歩けるようにリハビリしていくのか、どれくらいの介護が必要なのか、通常の医療保険で治療をするのか、それとも新たに介護保険を申請すべきかといったことを、その方の病態と介護保険のシステム、医療保険のシステムを分かった先生に判断していただけると良いと思います。

そのためには、かかりつけ医は、その方の置かれている状況(一人暮らしか否か、兄弟の有無や関係性、身の回りの世話をしてくれる人がいるかなど)を把握していることが望ましく、医療とは関係のない生活のことも知っている先生が良いと思います。

清田 その場合は、市区町村が指定する医療機関を受診することになります。

清田 これは私自身が心がけていることでもあるのですが、安心して何でも話せて、親身になって話を聴いてくれる先生が良いと思います。例えば、骨折やがんなどになった場合は、かかりつけ医が中心となって、専門の先生に、その方の症状や状態を伝えることもあるんですね。おそらく多くの方は、風邪をひいたときは〇〇病院、関節の治療は□□病院と、かかっている病院が複数あると思います。そのなかでも、特になんでも話せる先生を、時間をかけて少しずつ見つけていけるとよいのかなと思います。

清田 そうですね。そして、2025年4月から、「かかりつけ医機能報告制度」が始まりますので、かかりつけ医をより見つけやすくなると思います。

清田 各病院が、自院の「かかりつけ医としての機能」を都道府県に報告する制度です。例えば、かかりつけ医として、「時間外診療ができる」「入院退院支援をし、専門医療機関と連携できる(紹介状や診療データを引き継ぎしてくれる)」「在宅医療ができる」「介護等と連携できる(主治医意見書を書ける、ケアマネジャーと連携できる)」といった情報が集められて、地域住民に公開されます。

清田 はい。患者さんにとって、自分の一生をずっと診てくれる病院があったら、どんなに心強いことかと思うんですね。ですので、患者さんが安心して地域で生活できるように、病気の治療だけでなく、生活のなかで感じるさまざまな健康上の不安や悩みを受けとめながら、日々患者さんを支えていきたいと思っています。

清田 患者さんお一人おひとりとは、一生のお付き合いだと思っています。元気なときから、更年期そして終末期へと、人生のさまざまなステージでずっと患者さんを診つづけていきたい、見守り続けていきたいと思っています。かかりつけ医として、更年期医療をはじめ、介護や終末期医療などにも取り組むのは、そのどれもが患者さんの人生において大切で、欠かせないことだからなのです。

※3 ケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者やご家族からの相談に応じながら、介護サービス事業者と連携し、介護サービスの手配や調整を行う専門職。



介護のプロの手も借りていくことが大事です

清田 一人で抱えないことが大切です。誠実で思いやりのある方ほど、お母さんのために、お父さんのためだからと、よかれと思って頑張りすぎてしまうことがあります。更年期で自分の体調もつらいのに、「大丈夫大丈夫、私がやっておくから」と抱え込んでしまい、疲れがたまりにたまって倒れてしまう…。そうならないように、医療や介護のプロと連携しながら、自分の体も休めながら、介護ができると良いと思います。

ですが、そのバランスをとることは、実は難しいことでもあるんですね。介護は視点を変えると、他人が家に入ることでもあります。家に人が入り始めると、介護はとてもラクになるのですが、台所や洗濯物、散らかっている部屋など、プライベートなところが全部見られてしまいますから、心のハードルが高くなります。

ですが、介護の次のステップに行くには、例えば、介護職員の方に鍵を預けて、更年期の娘さんが日中仕事をしている間に、お母さんに介護サービスを受けてもらう、デイサービスに連れていってもらうといったことができるようになると、娘さんの負担も減っていきます。けれども、そこまでの信頼関係をつくっていくことがとても大切で、心のハードルも超えないといけない難しさもあります。

<この記事を監修いただいた先生>

清田 真由美 先生
医療法人社団清心会 春日クリニック院長
詳しいプロフィールを見る

<インタビュアー>

満留礼子

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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