更年期の不眠は心の状態も気にかけることが大切

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更年期を迎えてなんだか眠れなくなった…と感じる人は少なくありません。睡眠は日々の健康を支える重要な要素で、不眠は日中のパフォーマンスや生活の質にも影響するため、気になっている人も多いのではないでしょうか。また、更年期は、人生の大きな問題が、一度に多く降りかかりやすい時期でもあります。心の状態が影響することもあるかもしれません。そこで今回は、「更年期の不眠」について、更年期の専門医である東京科学大学の寺内公一先生にお話を伺いました。



更年期に不眠の問題を抱える人は多い

寺内先生(以下、寺内) 当院の更年期外来を受診されている患者さんを対象に、「寝つきが悪い」「熟睡感がない」といった不眠症状の有無について調べたところ※1、「寝つきが悪い」について、「ほぼ毎日」は23.2%、「週3~4回」は11.6%、「週1~2回」は18.8%いらして、合わせると53.6%でした。

また、「熟睡感がない」については、「ほぼ毎日」は30.4%、「週3~4回」は13.6%、「週1~2回」は21.4%で、合わせると65.4%となり、5~6割近い方が中等度以上の不眠症状を抱えていることが分かりました

寺内 更年期の不眠にゆらぎは影響していると思います。アメリカの研究※2によると、更年期に女性ホルモン・エストロゲンの分泌量がゆらぎながら急激に減少し、ほてり、のぼせ、発汗といった血管運動神経症状(ホットフラッシュ)が重症化すると、夜中に大量の汗をかいて起きてしまうことなどが増え、不眠症状が重症化することが報告されています

その一方で、客観的指標を導入すると、その関係性が明確ではなくなる、という研究もあります。つまり、更年期女性の「主観的不眠」と「客観的不眠」とは必ずしも一致しない可能性があるのです。

寺内 はい。眠れないと実感されている方を対象に、睡眠障害の有無を調べる「睡眠ポリグラフ検査」などを行い客観的なデータをとってみると、多くの場合、データ上はよく眠れているという結果になるのです。

このことから考えられるのは、血管運動神経症状(ホットフラッシュ)と不眠に関連はなく、ぐっすり眠った気がしないと感じている「主観的(自覚的)不眠」と、睡眠ポリグラフ検査(睡眠中の脳波や呼吸、心拍数などを測定する検査)の結果などが示す「客観的不眠」との間に、ずれが生じるということです。

けれども、自覚的な不眠について、私たちが行ったリストバンド型生活モニタ※3を用いた研究※4では、自覚的な不眠を抱える更年期女性は、睡眠効率(布団にいた時間に対して実際に眠った時間の割合)が低下し、疲労感が増加することが分かっています。

検査上は、よく眠れている結果になったとしても、ご本人はぐっすり眠れていないと感じていらっしゃいますので、つらい状況にあることは変わりありません。

ですので、限られた診療時間のなかでも患者さんのお話をよく聴いて、ホットフラッシュ以外に、何が自覚的な不眠を引き起こしているのかを、患者さんに寄り添いながら探っていくことが大切だと考えています。

それによって原因が分かることもありますが、仮に分からなくても、誰かに悩みを打ち明けること自体が心理的負担を減らしますので、更年期症状を和らげる効果が期待できると考えています。


※1 Terauchi 2014 Evid-Based Compl Alt 2014:593560
※2 Ohayon Arch Int Med 2006; 166(12): 1262-8
※3 運動量や睡眠時間、歩行数などの行動状況や生活リズムをグラフ化及び可視化できる装置
※4 Hirose, Terauchi 2016 Climacteric 19:369




心の状態が不眠に影響する!?

寺内 一つの仮説として、うつの問題が隠れているのではないかと考えています。前回、「更年期のうつ状態や不安感について」でもお話ししましたが、女性ホルモンのエストロゲンがゆらぐ時期は、女性はうつ状態になりやすい傾向があります。

寺内 はい。私たちが行った研究※5では、中等度以上の不眠症状をもつ方の1/3以上の方に、重度のうつが見られました。

さらにもっと調べていくと、「入眠障害(寝つきが悪い)」には「寝汗」と「不安」が影響し、「熟眠障害(ぐっすり眠れない)」には「寝汗」と「うつ」が影響することも分かりました※6

また、スペインの研究※7では、更年期世代の女性の不眠に影響するものとして、更年期の身体症状や肥満などのほかに、夫の浮気が報告されています。親密なパートナーからの暴力、特に心理的なDVが、中等度から重度の不眠に影響したと報告するアメリカの研究※8もあります。

寺内 はい。日本の気分感情障害患者数の男女比は、男性を1としたときに女性は1.6~1.9と報告されています※9。また、自覚的な不眠を感じている方は、更年期だけでなく、すべての年代で、男性より女性のほうが多いことも分かっています※10

更年期は、血管運動神経症状(ホットフラッシュ)だけでなく、強いストレスも重なりやすい時期です。特に、うつによって認知能力が衰えると、正常な自律神経の活動や睡眠を異常と捉えてしまうことがあり、自覚的な不眠が生じやすくなるのではないかと考えています。

※5 Terauchi 2010 Climacteric 13:479
※6 Terauchi 2012 Maturitas 72:61
※7 Cuadros Maturitas 2012; 72: 367-72
※8 Goldstein 2023 Menopause
※9 厚生労働省患者調査
※10 Hammond Am J Publilc Health 1964; 54(1): 11-23



女性も睡眠時無呼吸症候群にご用心

寺内 注意すべきなのは、閉塞性無呼吸症候群(睡眠時無呼吸症候群/OSAS)です。一般的には、肥満型の男性の病気と捉えられがちですが、更年期以降は女性にも増加する病気です。

閉塞性無呼吸症候群になる割合を、「男性」と「閉経前の女性」でみてみると8対1の割合ですが、「男性」と「閉経後の女性」で見ると1.4対1となり、閉経後は男女差がかなり縮まることが分かっています※11

また、私たちの研究で※12、睡眠薬を飲んでも不眠症状が改善しない方を対象に、閉塞性無呼吸症候群の有無を調べたところ、14%の方が閉塞性無呼吸症候群と診断されました。さらに、閉塞性無呼吸症候群が疲労感と関連することも分かりました。

女性は閉経を期に太りやすくなり、体脂肪も増える傾向にありますので、不眠を感じている方は、気を付けていただきたいと思います。

寺内 閉塞性無呼吸症候群(OSAS)の簡易検査を採用している医療機関であれば、保険診療で簡易的な検査を受けることができます。まずは、医療機関で問診を受けましょう。その結果、閉塞性無呼吸症候群が疑われる場合は簡易検査に進みます。

検査支援センターから自宅に検査装置が送られてきますので、手順書に従って測定し、それを送り返します。検査結果のデータは医療機関に送られ、医療機関で医師から説明を受けるという流れです。

※11 Bixler 2001 Am J Respir Crit Care Med
※12 Odai, Terauchi 2022 Menopause 29:680



生活習慣で気を付けたいことは?

寺内 喫煙です。私たちの研究で、不眠と喫煙の関連を調べたところ※13中等度以上の不眠症状を自覚している女性には「1日20本以上喫煙する」など、過度の喫煙者が多いことが分かりました。

たばこに含まれるニコチンには鎮静作用がありますが、鎮静作用はすぐに消失して、覚醒作用のみが数時間持続することが分かっています。ですので、不眠対策のためにも、健康のためにも、禁煙を心がけましょう。

寺内 私たちの研究※14では、低用量(1日25mg)の大豆イソフラボンアグリコンを8週間摂取した方たちは、プラセボと比較して、有意に不眠症状が改善しました。


※13 Terauchi 2010 Climacteric 13:479
※14  Hirose, Terauchi 2015 Arch Gynecol Obstet 293:609



治療法について

薬物療法

寺内 不眠症の治療に用いられる睡眠薬には、いろいろなものがありますが、一番新しいものにオレキシン受容体拮抗薬があります。

寺内 簡単にお伝えすると、脳の覚醒を促すオレキシン(神経ペプチド)の働きを抑えて、自然に眠くなるように促す薬です。

オレキシン受容体拮抗薬が登場するまでは、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が中心でしたが、筋弛緩作用や依存性が高いことなどが懸念点としてありました。

その点で、オレキシン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬とは異なるアプローチをしますので、筋弛緩作用や依存性といった負担がなく、今後の活用が期待されています。

他に、抗うつ薬であるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が、血管運動神経症状(ホットフラッシュ)を改善することが分かり※15、うつはないけれど血管運動神経症状がある方に対して、不眠の改善を目的にSSRIやSNRIが用いられることもあります。

寺内 漢方薬は、患者さんの証(タイプ)に合わせて処方します。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、更年期障害に有効な漢方薬の代表です。私たちの研究では、加味逍遙散に入眠障害(寝つきが悪い)と熟眠障害(ぐっすり眠れない)を改善する働きがあることが分かりました※16




心理療法

寺内 更年期の不眠に有効な非薬物療法として、認知行動療法、運動療法、マインドフルネス/リラクゼーションが報告されています※17

例えば、アメリカの研究※18で、中等度以上の不眠と血管運動神経症状(ホットフラッシュ)がある更年期女性を対象に認知行動療法を行ったところ、不眠に改善が見られたという報告があります。

寺内 簡単な説明になりますが、睡眠における認知行動療法は、睡眠に対する誤った捉え方について認識し、それをどう改善していくか、という治療法になります。睡眠日誌などをつけながら、よりよく眠るためにこれまでの睡眠への認識を変え、行動を変えていきます。

例えば、年齢を重ねて、若い頃と同じように眠れなくなった場合、そのことを思い悩むのではなく、自然なことと受けとめたり、眠れないときは無理にベッドの上で長い時間を過ごすのではなく、むしろベッドにいる時間を短くしてベッドで眠る時間の割合を高めたりしていきます。

※15 Berendsen 2000 Maturitas
※16 Terauchi 2011 Arch Gynecol Obstet 284:913
※17 Attarian Menopause 2015; 22(6): 674-84
※18 McCurry JAMA Intern Med 2016. 1795


<この記事を監修いただいた先生>

寺内公一先生

寺内 公一 先生
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
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<インタビュアー>

満留礼子

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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