更年期から考える介護のハナシ②要介護の親を支える方法はいろいろあります

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介護が始まると、かかりきりになるのでは…と思う人は多いかもしれません。仕事を続けていけるだろうかという想いもよぎります。けれども、すぐにそうした状態になることは少ないようです。家族のあり方と同様に、介護も多様です。親だけでなく、自分のペースを保ち、労わりながら介護を続けるには、どのような心がけが必要なのでしょうか。今回も春日クリニック院長で、長年更年期女性を応援し続けている清田真由美先生にお話を伺いました(2/3回目)。



人とつながることが、介護をラクにします

清田先生(以下、清田) 確かに介護は、段階的にそうした状態に向かっていくのですが、多くの場合、すぐに1日中親に付き添うような状態になるわけではありません

「自立」というのは、介護をまったく受けない状態、ということではないんですね。

その方の要介護の程度や基礎疾患の有無にもよりますが、仮に、要介護の程度が高くても、周囲のサポートを受けながら、自分の意思を尊重した、自分らしい自立した生活を送られている方はたくさんいらっしゃいます。

要介護認定を受けていても、その方なりの判断能力がしっかりされていれば、工夫によって生活のしにくさを軽減しながら、自立した生活を維持していくことはできるのです。

清田 そうです。今は優秀な介護用品が利用できますし、インターネットを活用すれば、家にいながらにして、日常生活で必要なものの多くをお取り寄せできます。要介護認定を受けられても、ご自身でできることは、まだまだたくさんあるんです。

例えば、料理が好きだけれど、足が不自由で、歩いて買い物に行くことが難しい方であれば、インターネットで食材を購入して、自宅まで届けてもらうことができます。

シンプルな朝食や、どんぶりものなどの簡単な単品料理は作れるけれど、品数の多い夕食を作るのは難しいという方は、1食だけ配食サービスを利用することもできます。

こうした工夫に加えて、もう一つ大切なことが、「人とつながり合うこと」です。

一つの例をお話しますと、当院の「安心ネットワーク」の一つに、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)があるのですが、そこには、認知症と診断されて10年経つ方も暮らしていらっしゃいます。

その方も含めて、同じサ高住に暮らす数人でチームを組んで、定期的に生協で食材や日用品をご購入されています。認知症の方の注文は、送信ボタンを押す前に、お友だちが確認してくれます。

あるとき、認知症の方のお家に、トイレットペーパーの予備があったのですが、注文にチェックが入っていたので、お友だちが「トイレットペーパーの予備はまだあるけれど、注文する?」と声をかけられていました。ご本人も「そうだったかも」と思い直して確認されると、確かに予備がありましたので、トイレットペーパーを注文から外して、「今回はこれだけ買えばOKね」という感じで、安心して買い物をされていました。


清田 そうなんです。確かに、その方の要介護度は高めではあるのですが、周囲に10年来の仲良しのお友だちがいて、お互いに助け合いながら暮らしていますので、介護保険のサービスを多く利用しなくても、自立した生活を送ることができています。

他にも、入居者さん同士で声をかけ合い、週に一度タクシーを呼んで、連れ立って買い物に出かけていらっしゃる方もいます。

清田 そうですね。もともとサ高住を作ろうと思ったときに、介護度が上がっても、仲良しのお友だちが一緒なら、公的介護サービスが不足するであろう近未来も安心して、楽しく暮らしていけるのではないかという想いはありました。

けれども、そうした提案や段取りをする前に、2016年の熊本地震、2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックがありましたので、自然に住居者同士が助け合うようになっていかれましたね。

清田 そうですね。人とのつながりや地域の絆は、お金よりもっと大事なものだと感じます。

女性の多くは、つれあいを亡くされた後、晩年は一人で暮らす傾向にあります。そして、年齢を重ねれば、介護の必要性も出てきます。

ですので、一人になった後も自分らしく生きていくためには、今暮らしている自宅にあまりこだわりすぎないことも大事かなと思っています。

親御さんご自身がお元気で、断捨離や引越しをするエネルギーがあり、周囲の方とコミュニケーションがとれるうちに、新しい場所に住みかえて、新たな絆を作っていくのも一つだと思います。

清田 最終的に一番問題になるのは、排せつの問題です。

今は紙パンツの素材や機能も優れていますので、紙パンツをつけてご自身で生活できる間は、それほど人の手を借りずに暮らしていくことができます。

けれども、排せつの処理が一人では難しくなると、いわゆる、冒頭でお話にあった介護のイメージに近くなり、介護保険のサービスを多く使うことになります。

排せつの処理を自身で行え、自分なりの判断能力ができる方でしたら、要介護度が高くても、先ほどの例は仲良しのお友だちでしたけれども、介護サービスを熟知しているケアマネジャーと連携して、その方が生活で困っていることを軽減しながら、自分らしい自立した生活を送ることは可能です。

ですので、親の介護保険サービスが始まったからといって、更年期の娘さんが、親にぴったりついている必要は全然ないんですね。

ただし、ご本人に「自分がここにいたい」「これがしたい」「これはしたくない」といった物事を決定する能力がなくなってしまったときは、適切なケアを受けるためにも、その方が暮らす施設のスタイルを変えていくことが必要になります。

清田 認知症の方の場合は、グループホームや認知症の介護ができる施設がありますので、もし、娘さんとして、親御さんの認知症が進みそうだなと感じるのであれば、今のうちから、親御さんに合う施設を探していかれると良いのかなと思います。入居を急ぐような状況になると、複数の施設を見学する余裕や時間もなくなってしまいますから。 見学の回を重ねると、それぞれの施設の良さや雰囲気、入居されている方のご様子がより分かりますし、自分たちに合わないところや通いやすさといった利便性も明瞭になると思います。



自分の老後のためにも仕事は辞めないで

清田 そうですね。そうしたご相談を受けることはあります。責任感が強く愛情深い人ほど、自分一人で介護を頑張りすぎてしまう傾向があるように思います。

一方で今、親御さんの介護をされている更年期女性も、あと20~30年経てば自分の介護が始まります。

厚生労働省は、女性の介護が始まる年齢は平均75歳くらい、要介護期間は約12年、と報告しています。




現役世代の年金が少ないことが問題になっていますが、もし更年期の今、仕事を辞めてしまったら、その先10数年間の収入がなくなるだけでなく、さらにその後貰える年金も少なくなることになりますので、介護で無理をしずぎず、自分のペースを保ちながら仕事を続けていく方法を一緒に考えていきます。

親御さんの介護で娘さんが悩まれる一方で、診察で親御さんのお話を伺いますと、親御さんご自身は、(自分が親の介護で大変な思いをされてきた世代ですから)子どもに同じ思いをさせたくない、と考えていることが多いのです。

清田 2025年に団塊の世代が75歳以上になり、高齢化が進んで、日本は多くの方が亡くなる多死社会を迎えています。

介護に関わるお金も人手も足りていませんし、そうした状況は今後も続いていくでしょう。ご相談を受ける更年期女性のなかには、親の介護は自分がなんとかしなければいけない…と思い込んでいる方がいるのですが、もう家族のなかで誰か一人が介護を背負う時代ではないんですね。

こうした時代には、一人で介護を抱えずに、周囲の人やプロの手も借りて、介護に手をかけすぎずに、心の距離をとりながら、いい意味で割り切っていくことが必要だと思います。

情報や技術、サービスを駆使しながら、人とつながり合うことができれば、公的サービスだけよりも心豊かな介護となり、親御さんも娘さんも、それぞれの人生を大切にしながら、より安心して暮らしていけるのではないかと考えます。

 

知っておきたい訪問介護のこと

清田 訪問介護というと、入浴や食事のケア、オムツ替えといった「身体介護」のイメージがあると思いますが、それに限らず、利用者の生活をサポートする「生活援助」も利用できます。

身体介護も生活援助も、基本的に、ケアマネジャーが作成するケアプランに盛り込まれている必要があります

プランに盛り込まれていれば、訪問介護として、日常生活の買い物にリハビリを兼ねて一緒に出かけたり、補聴器を月に1回合わせに行ったり、歩行練習に付き添ったり※1、病院に同行したり※2することもできます。

お一人で暮らしているか、ご家族と暮らしていてもご家族が家事を行うことが難しい場合には、ご本人の分だけであれば、調理や洗濯、掃除といった家事の援助をお願いすることもできます。

生活援助は、介護士だけで行うこともできますが、自立支援を目的に、利用者と一緒に行うこともできます。それは、できるだけ自分で行うことが、今あるご自身の体の機能を保ち、生活の質の維持や向上につながるからです。すべてを介護士に支援してもらうのではなく、できることは自分で行うことが大切です。

例えば、調理の場合は、「次はこれを切ります」「スイッチを入れましょう」とサポートして、一緒におみそ汁を作ったり、洗濯であれば、一緒にシーツを取り替えて洗ったり、季節ごとの衣替えなども共に行うことができます。


※1 歩行練習が利用者にとって身体機能の維持・改善をするために、ケアプランに盛り込まれている場合
※2 病院側による対応が難しく、付き添いが必要と判断し、ケアプランに盛り込まれている場合




ケアマネジャーと連携するには?

清田 ケアマネジャーは、利用者が必要な介護を受けられるように、ケアプランなどを作成する専門職です。月に1度以上、利用者宅への訪問が義務づけられていて、面談などを通じて、ケアプランの内容と利用者の課題や要望との間にずれがないか、体の状態や住まいの環境などについても確認します。

介護はケアマネジャーによるところが大きいといえます。というのは、ケアマネジャーがケアプランを作成しますので、ケアマネジャーが経験豊かで知識もある方なら、親御さんに合うサービスの提案の幅が広がるからです。

信頼できるケアマネジャーや介護士とめぐり会えると、介護がうんとラクになります。その方たちと連携し合えれば、遠距離介護などでご実家を離れても心強いはずです。

清田 はい。ケアマネジャーが訪問したときに、分からないことがあれば、質問したり、要望を伝えたりしてみましょう。気になることもどんどん伝えると良いと思います。

というのは、親御さんに認知症がある場合、ケアマネジャーの前では、意識して受け答えをしっかりされることがありますので、ケアマネジャーが月に一度程度訪問しても、親御さんの変わった様子に気づきにくいことがあるのです。

ですので、親御さんの様子が気になるときは、娘さんのほうから、「こんなことが最近気になるんです」と情報を発信していきましょう。ケアマネジャー側もそうした情報は、ケアプランを作成する際の参考になります。介護ではプライべートな部分を見せることになりますが、介護従事者には守秘義務がありますので、安心してご相談されると良いと思います。

清田 例えば、認知症をおもちの方の場合、お風呂に全然入らなかったり、冷蔵庫に食品以外のものをしまっていたりすることはよくあるのですが、娘さんが1日か2日で帰ってしまうと、そうした様子になかなか気づけません。お母さんがお風呂に入らなくても、「今日は風邪ぎみだから入らない」とお母さんが言えば、そうなのかなと思ってしまいます。

ですので、ご実家で遠距離介護を始めるときや、気になることがあるときは、娘さんがお母さんと1週間くらい生活されると、お母さんの変化に気づきやすくなると思います。

清田 理由はお一人おひとり異なります。認知症の有無に関わらず、脚の筋力が衰えて、浴室で転ぶことに不安を感じていたり、浴槽に脚を上げて入れなくなっていたりすることもあります。また、ケアプランに入浴介助が盛り込まれていても、人前で裸になることに抵抗がある場合もありますし、入浴する必要性を感じていないこともあります。

浴室に問題がある場合は、介護保険で介護用品を揃えて、自宅の浴室を使いやすく整えることもできます。自宅で訪問による入浴が難しい場合は、デイサービスを利用する方法もありますので、ケアマネジャーに相談してみましょう。ケアプランにデイサービスでの入浴を盛り込んでもらえれば助かりますし、デイサービスの入浴の方が、個別に入浴の訓練をすることもでき、訪問介護の場合より介護保険のコストを低く抑えられるのも利点です。


清田 親身になってくれなかったり、うまくコミュニケーションがとれなかったりするときは、ケアマネジャーを代えることもできます。

最初に担当になったケアマネジャーに律儀にお願いし続けようとする方もいらっしゃいますが、人同士の相性もありますし、我が家には合わないなと思ったら、代えていただいて大丈夫です。



更年期症状でつらいときはどうしたらいい?

清田 更年期症状がつらいときは、がまんせずに、更年期に理解の深い医師とつながりましょう。

介護の中心にいる人は、悩みや負担を一人で抱え込みがちです。過度なストレスは更年期症状を強くすることが知られていますが、介護や更年期症状のつらさを打ち明けられずにいると、倒れてしまうこともありますし、ご自身の体調の快復にも、時間がかかってしまいます。

ですので、「更年期症状がつらいときは、“白旗を上げなさい”」「今あなたはとても頑張っているけれど、あなたが倒れてしまったら、子どもさんや夫さんが、もっと困ってしまうのよ」と伝えて、ご家族で介護を交代したり、デイサービスなどを利用したりして、介護をしている方が休む時間を、まず確保するようにアドバイスしています。あれをしたら休もう、これが済んだら休もうと思っていると、いつまでたっても休めませんので。

家族を優先してしまう人は、自分のことを二の次にしてしまう心のクセがありますので、その感情的な部分に、いつのまにか苦しめられていることがあるんですね。

また、疲れすぎてしまうと、いざ、親御さんをどこかに預けようと思っても、そうしたサービスを調べる気力も体力もなくなっていることがあります。

清田 更年期のことも、介護のことも、いろんな人の話を聴いたり、新しく正しい情報を集めたりすることが大切だと感じます。

他の人はどんなふうに更年期を乗り越えているのかな、介護をしているのだろうと、知ろうとすることが、自分のことを二の次に考えがちな心のクセを少しずつ変えていくことにつながりますし、ご自身の視野を広げる機会にもなっていくと思います。


<この記事を監修いただいた先生>

清田 真由美 先生
医療法人社団清心会 春日クリニック院長
詳しいプロフィールを見る

<インタビュアー>

満留礼子

満留 礼子
ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事制作も多い。

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